このように民間の水族館の新増設が相次ぎ、そのビジネスが活況を呈している背景には、技術の進歩により立地や展示方法の選択肢が増えたことがあります。例えば人工海水です。従来は、水族館には天然の海水を大量に運ばなければならず、多大なコストがかかるため内陸では設置しにくいとされてきました。しかし近年、「完全人工海水」と呼ばれる新技術が確立され、安価に人工的な海水を大量製造し水槽内で浄化して、水質を一定に保てるようになったことで、来客が見込める内陸部の街中にも立地しやすくなりました。都市部にある京都水族館やすみだ水族館の開業が可能になったのも、人工海水の技術向上による面が大きいといえます。
このほか、水槽に使用するアクリルパネルの強度が飛躍的に向上したことや、軽量で強度の高い「擬岩(ぎがん=海の中の岩を模したもの)」を低コストで作れるようになったことなども寄与しています。都市部に開業しやすくなったことで、今後は複合商業施設などで水族館が併設されるケースが増えそうです。
低コストで運営がしやすくなったことは、公立水族館にとっても朗報でしょう。指定管理者制度で民間委託がしやすくなり、積極的に民間の力を活用する動きも増えそうです。
女性向けに夜間に館内に泊まり込めるプランを導入したり、来場者が海の生き物に触れることができる一角を設けたりするなど、集客力向上に向けて意欲的に取り組んでいる水族館も少なくありません。水族館は家族客やカップル、子どもから年配客にいたるまで幅広い客層を呼び込める力を持っているはずです。新しい技術と民間ノウハウを活用しながら、新たなステージに向かおうとする水族館のこれからが注目されます。
※参考文献
『水族館をつくる』(成山堂書店)
『新版 水族館学』(東海大学出版会)