企業統治とは企業が適切な経営や事業運営をするよう経営者を監視・監督する仕組みのことです。経営陣が巨額の損失や商品の欠陥を隠すなど、企業でさまざまな不祥事が起きています。企業がひとたび不祥事を起こせば、消費者や株主、取引先などの信頼を失うだけなく、ブランド力も傷ついて経営に打撃を受け、最悪の場合は経営破綻に追い込まれることもあります。企業の不祥事が相次げば、経済・産業活動に悪影響を与え、消費者や株主の大きな損失にもつながります。
企業活動が人の携わるものである以上、どんな企業にも不祥事発生のリスクがあります。問題が大きくなる前に不祥事の芽を見つけ出して是正する仕組みが必要です。これが企業統治の基本的な考え方です。
企業が情報公開を徹底すれば、社外の消費者や株主などの監視の目が強まります。社内で経営をチェックする体制を整えることも有効です。具体的には、経営方針などを決める取締役をその企業と利害関係の少ない社外から登用したり、取締役などの職務の執行をチェックする監査役の機能を強化したりする方法があります。企業統治の拡充に積極的に取り組むことは、経営力の強化によって競争力を高め、長期的な企業価値の向上にもつながります。
企業統治の考え方や仕組みはもともと米国で発展しました。2000年代前半に米国で粉飾決算などの不祥事をきっかけにした大企業の破綻が相次ぎました。この反省から02年に企業会計や財務書類の信頼性を確保するため企業改革法(通称SOX法)が成立しました。これを受けて日本でも企業統治強化の議論が本格化しました。
欧米企業では経営の透明性を高める狙いから、社内の取締役が業務の執行に専念し、執行状況のチェックや取締役の指名などは社外取締役が中心になって行う経営形態が一般的です。これに対して日本企業は従来、取締役が業務を執行し、監査役が経営を監視・監督する監査役会設置会社が主流で、海外投資家から監査役の監視機能が不十分でその権限が不明確なことなどへの批判がありました。
そこで03年に商法が改正され、株式会社の新たな経営形態として「委員会等設置会社」(現・指名委員会等設置会社)が導入されました。この経営形態を選んだ企業は取締役会と別に、業務を執行する執行役を置きます。取締役会内には執行役の業務を監査する「監査委員会」、取締役や執行役の報酬を決める「報酬委員会」、取締役の選任・解任を決定する「指名委員会」の3委員会を設置し、各委員会の委員の過半数を社外取締役とします。これにより経営の監視・監督と業務執行が明確に分離され、意思決定の迅速化と経営の監視・監督機能の強化が期待できます。
このほか、有価証券報告書に間違いがないことの保証や正しい財務書類をつくる社内体制があるかを確認する「内部統制」の報告ルールが08年度から義務づけられるなど、企業統治を強化するための法律や制度の整備が進みました。