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参入が相次ぐ「植物工場」の最新事情を知る

2014.12.1 掲載
野菜や果物などの農作物を生育環境を自動制御した施設内でつくる「植物工場」が増えています。季節や天候に関係なく1年を通して安定して生産でき、安心・安全であることなどが人気です。政府は補助金を出して普及を後押ししており、途上国などへの設備やノウハウの輸出も始まっています。今回は植物工場とは何か、注目され急増している背景、企業の参入状況などについて解説します。

4.大手メーカーの参入が相次ぎ、設備輸出の動きも

4.大手メーカーの参入が相次ぎ、設備輸出の動きも
 成長を見越して、多くの企業が植物工場ビジネスに参入しています。特に参入が目立つのが電機大手です。電機業界はリーマン・ショックや東日本大震災の影響、海外メーカーの攻勢などで、半導体やデジタル家電の生産縮小を余儀なくされ、相次ぎ工場を閉鎖しました。工場は稼働していなくても建物や土地には固定資産税がかかります。このため、閉鎖した工場や遊休地を活用でき、モノづくりで培った技術力を生かせる植物工場に進出しています。
 大規模な植物工場の設置にいち早く乗り出したのが富士通です。操業を停止した福島県会津若松市の半導体工場の一部を13年に植物工場として再生。半導体生産に使用していた清潔なクリーンルームを活用してレタスを栽培しています。同社のレタスはカリウムの含有量を通常の5分の1に抑えており、カリウムの摂取制限がある腎臓病患者も生で食べられます。養分などの生育環境を緻密に制御できる植物工場ならではの商品といえます。
 東芝は神奈川県横須賀市の遊休施設を植物工場に転用し、14年11月から生産したレタスの販売を首都圏で始めました。生産能力は年間300万株で、企業の植物工場としては類のない生産規模です。パナソニックも福島市のデジタルカメラ工場の一部を植物工場に改装し、14年3月から稼働させています。
 電機以外では、王子ホールディングスや日清紡ホールディングスなどが生産・研究拠点などの跡地を植物工場として活用しています。
 植物工場のシステムや設備、技術を輸出する動きもあります。三菱ケミカルホールディングス傘下の三菱樹脂アグリドリームは14年5月、無農薬野菜を自動栽培するシステムの販売会社を中国の農協組織と合弁で設立。17年までに中国国内の50カ所に植物工場を売り込む計画です。中国では農産物の残留農薬や土壌汚染の問題が深刻化しており、安全な食品に対する消費者のニーズの高まりに応えて市場を開拓します。
 葉物野菜が育たない環境が厳しい地域からの引き合いも増えています。農業ベンチャーのグランパは16年に日揮と組んで植物工場を海外に建設。マレーシアやロシア、サウジアラビアにそれぞれ100ヘクタール程度の敷地を確保し、日揮が建設した野菜工場でグランパがレタスを生産する計画です。
 途上国を中心とする人口増加により、世界の食糧需給は将来、ひっ迫が予想され、効率よく食糧を生産できる植物工場への需要はますます伸びる可能性があります。技術力を生かせる日本企業の新たな成長事業としてだけでなく、国内農業の復活の足がかりとしても植物工場にかかる期待はさらに高まりそうです。
2014年12月1日掲載