ビジュアル・ニュース解説

築地市場の豊洲移転の背景や課題を知る

2014.9.15 掲載
首都圏の食生活を80年近く支えてきた、日本を代表する卸売市場の築地市場。施設の老朽化やスペース不足、卸売市場を取り巻く環境の変化などで、2016年に江東区・豊洲に移転する予定です。新市場は効率的な荷さばき場を設け、温度管理を徹底するほか、多様な消費者ニーズに応えるために食品の加工・小分け機能を強化します。今回は築地市場の概要や移転の背景、豊洲新市場の新たな機能などについて解説します。

4. 最新設備で時代のニーズに対応

4. 最新設備で時代のニーズに対応
 豊洲新市場の特長の一つが完全閉鎖型の施設です。産地から届く品物の荷下ろしから、取引を終えた購入者が荷物を積むまでの過程の場所をすべてセ氏25度に空調管理。コールドチェーン(低温流通)による品質保持を実現します。
 十分な駐車場の確保や情報システムの活用により、入退場や場内移動が円滑にできるようにします。トラックを売り場に直接つけられるようになるため、搬出入もしやすくなります。ターレ用の専用通路が設けられるので、接触事故は減りそうです。
 新市場は消費者のニーズに対応し、食品を加工したり小分けしたりする機能も強化します。水産卸売場とは別に加工パッケージ施設を整備し、魚をさばいて切り身にしたり、練り物などを作って出荷したりできます。
 築地市場が移転へ本格的に動き出したことで、20年に東京で開催される夏季五輪に向けた都市基盤整備に弾みがつきそうです。五輪会場と都心部をつなぐ幹線道路「環状2号線」は築地市場の跡地を通る計画ですが、移転の遅れで暫定的な迂回路の建設が必要になるなどの影響が出ていました。今後、23万平方メートルに及ぶ跡地の再開発をどう進めるかの議論も進みそうです。
 ただ、築地市場の移転には懸念材料もあります。その一つは施設の広さが十分かどうかということです。新市場の敷地面積は築地の約1.8倍の40万7000平方メートル。水産物63万トン、青果物35万トンの年間取扱数量を想定し、敷地面積トップで年間取扱数量95万トンの大田市場(東京・大田)を基準にして見合う面積を割り出しました。各施設をコンパクトに配置した効率的な構造となるとはいえ、将来の取扱量の増加を考えると不安が残ります。実際、89年の開業時には広大とされていた大田市場も、現在は荷さばき場のスペースが不足するなど手狭になっています。
 動線についても問題があります。新市場では水産物をセリにかける卸会社とセリで仕入れた魚などを小売店や飲食店に売る仲卸会社の売り場が、都市計画道路の高架下の連絡通路で接続され、築地市場より配送距離が長くなり時間がかかります。水産物を扱う棟と青果物を扱う棟が環状2号線で隔てられるため、買い回りがしにくくなるとの指摘もあります。共同配送など、運用の改善で機能を高められるかが注目されます。
2014年9月15日掲載