ビジュアル・ニュース解説

図書館の最新トレンドについて知る

2013.8.5 掲載
図書館が様変わりしています。国立国会図書館が蔵書の電子化を進めて一部をネット上で公開したほか、東京都の千代田区立図書館が電子書籍の貸し出しを始めるなど、いわゆる「電子図書館」の動きが広がっています。図書館を駅ビルの中に開館したり、運営を民間に委託しカフェを併設したりするなど、従来のイメージを打ち破る意欲的な公共図書館も増えています。今回は公共図書館の電子化・民営化の動きを中心に図書館の新潮流について解説します。

4. 民間書店が公立図書館を運営する例も

4. 民間書店が公立図書館を運営する例も
 電子化と並ぶ、公共図書館のもう一つの新たな潮流が民営化です。03年の地方自治法改正で、公共施設の管理・運営をNPO法人や企業など民間が代行できる「指定管理者制度」がつくられたのをきっかけに、この制度を活用して民間企業に運営を委託する公立図書館が増えています。特に目立つのが民間書店への管理・運営の委託です。例えば図書館流通センター(TRC)は全国186館(13年7月1日現在)で指定管理者として管理・運営しているほか、紀伊国屋書店も東京都などの図書館の管理・運営実績があります。
 書店が図書館の管理・運営に乗り出している背景には昨今の厳しい出版状況があります。12年の書籍販売額が約8013億円と6年連続で前年割れとなっている中、公立図書館の数はここ10年間で2割増えています。公共図書館が本を買うための予算は減少傾向でしたが、11年度は1館あたり956万円で18年ぶりに前年度を上回りました。書店は図書館にも本を販売しており、安定的な販売先として、公立図書館が注目されているのです。書店が図書館の運営に加われば、その図書館に対する書籍の売り込みなどで有利になり、どんな本が図書館で人気なのかを把握できるメリットがあります。
 図書館側も民営の経営ノウハウによりサービス向上とコスト削減が期待できます。民間委託の成功例として注目されているのが佐賀県武雄市の図書館です。同市は12年5月、DVDレンタルの「TSUTAYA」や書店を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)を市の指定管理者とし、5年間運営を任せる方針を発表。市が約4億5000万円、CCCが約3億円を負担して図書館を改装し13年4月に開館しました。開館時間は午前9時~午後9時と4時間延長し、年中無休になりました。自由に手にとって読める開架式書架の蔵書も2倍の20万冊に増えました。入り口近くにはTSUTAYAと新刊書を販売する「蔦屋書店」のほか、CCCがフランチャイズ経営する「スターバックスコーヒー」もあり、飲み物を片手に本を読めます。TSUTAYAのポイントカード「Tカード」が図書館利用カードとして使え、貸し出しにポイントがつきます。改装前から働く司書はCCCが継続雇用し、書店や飲食業の利益で人件費を賄います。
 CCCは読書に興味を持つ人が多い図書館に書店を出店でき、効率的に売り上げを伸ばす新たなビジネスモデルのノウハウを入手できるというメリットがあります。武雄市は利用者の利便性の向上を図るとともに、年間1億1000万円の委託料を支払うことで、直営時より年1000万円のコスト削減につなげたい考えです。
 滑り出しは好調です。書店やカフェの併設などが話題となり、4月末の来館者は前年の5倍に急増しています。地元の書店やレンタルDVD店からは「税金を使った民業圧迫だ」との批判も出ていますが、公共図書館のあり方に一石を投じる動きとして注目されています。
 電子化や民営化でますます便利になる図書館。書籍の電子化が進む中で、紙の書籍を保存する図書館の役割こそ重要との声は根強くあります。本来の役割を守りながら、時代に即したサービスを模索し続ける図書館から今後も目が離せそうにありません。
2013年8月5日掲載