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進む円安、企業や家計の負担増す

2022.8.1 掲載
円安が急速に進んでいます。2022年7月には一時1ドル=139円台に下落し約24年ぶりの円安・ドル高水準をつけました。円安はこれまで日本経済の追い風になるとされてきましたが、資源高に円安が加わって輸入物価が高騰。企業や家計の負担が増して「悪い円安」との見方が広がっています。今回は円相場が決まる仕組みや円安が及ぼす影響、円安が進む背景などについて解説します。

2.日米の金利差拡大などで約24年ぶりの円安に

2.日米の金利差拡大などで約24年ぶりの円安に
 相場が変動する要因は様々ですが、金利差、貿易収支、景気動向が大きな影響を与えます。金利が高い国の通貨は、金利が低い国より上昇しやすくなります。金利の高い国で資金を運用する需要が強まるためです。例えばドルの金利が年1%、円がゼロなら、1年後に1ドルは1.01ドルになりますが、1円は1円のままです。金利が付かない円をドルに替えようとする企業や機関投資家などが増えれば、円が売られドルが買われます。また、輸入より輸出が多い貿易黒字国は輸出企業が海外で稼いだ外貨を自国の通貨に替える需要が、輸入代金を支払うために自国の通貨を売って外貨に替える需要より大きくなるため、通貨高が進みやすくなります。景気がよくて企業の業績が上向いているときは、その国の国債や企業の株式を買う海外投資家が増えるので通貨高になりやすくなります。
 2022年3月まで1ドル=115円程度で推移していた円相場は、その後円安が加速。同年7月14日には1998年9月以来およそ24年ぶりに一時139円台まで下落しました。円は対ドルで年初から約17%下落し、世界の主要通貨で最も価値を下げました。米国でインフレが進み、米連邦準備理事会(FRB)は22年3月にゼロ金利政策を解除して政策金利の0.25%引き上げに踏み切り、同年5月に0.5%、同年6月には0.75%、同年7月も0.75%と利上げを急いでいます。欧州中央銀行(ECB)も同年7月に11年ぶりに0.5%の利上げを決めました。これに対し、日銀は金融緩和を続けて円の金利を据え置いており、日米の金利差が拡大したことで円売りが進みました。ロシアのウクライナへの侵攻で原油などのエネルギーや小麦などの穀物の値段が上がり、日本の貿易収支は22年6月まで11カ月連続の赤字となっていることも、決済通貨のドルを買って円を売る動きにつながっています。
 円安はこれまで日本経済にとって良いとされてきました。円安が進めば、輸出企業が外貨で得た代金を円に交換する際により多くの円を入手でき、その分だけ製品を値下げして輸出を伸ばすことができました。しかし、今回は「悪い円安」との指摘が広がっています。自動車メーカーなどの企業が生産拠点を海外に移しており、円安による輸出へのメリットは小さくなっています。それに加え、円安が資源価格の高騰に拍車をかけています。エネルギーや食料の自給率が低い日本は原油や小麦などの大半を輸入に頼らざるを得ません。日銀がまとめた22年5月の輸入物価指数は、ドルなどの契約通貨でみると前年同月比27.6%の上昇だったのに対し、円ベースだと44.6%上がっており、円安による負担の上乗せ分が大きいことがわかります。国内製品も生産や流通の過程でガソリンや電気を使うため、値上げせざるを得ない状況に追い込まれています。
2022年8月1日掲載