ビジュアル・ニュース解説

新型コロナで死亡・重症者、日本はなぜ少ない?

2020.11.16 掲載
新型コロナウイルスが世界でなお猛威を振るっています。感染の拡大終息のめどは立っていませんが、このウイルスに関する研究が進み、特徴が徐々に明らかになっています。日本人の死亡者や重症者が欧米と比べて少ないこともそのひとつです。今回はその要因について解説します。

2.血圧の調整に関わるたんぱく質の働きに違い

2.血圧の調整に関わるたんぱく質の働きに違い
 国立国際医療研究センターが20年8月に公表した国内の新型コロナウイルス感染症の入院患者約2600人の分析結果によると、死亡率は7.5%と軒並み20%を超える欧米に比べて3分の1にとどまりました。同センターはこの理由について「糖尿病などの基礎疾患(持病)を持つ患者の割合が少ないことが関係している可能性がある」としています。海外などの研究で高血圧などの持病を持つ患者は重症化しやすいことがわかっています。国内の糖尿病を持つ患者は17%と英米の半分程度で、肥満の患者は6%と米国の6分の1以下でした。
 また、同センターなどのチームは血圧の調整にかかわるたんぱく質の遺伝子の違いが要因の可能性があると指摘しています。細胞の表面にあり、新型コロナウイルスが細胞に侵入する際に使うたんぱく質「ACE2」と同じグループに属する、たんぱく質「ACE1」の遺伝子に着目。よく働くタイプとあまり働かないタイプに分かれるACE1のうち、よく働くタイプが多いスペインや英国、イタリア、フランスなどの欧州諸国と比べ、あまり働かないタイプが多い日本や中国、韓国、台湾など東アジアは感染者数や死亡者が少ない傾向があることがわかりました。
 血圧が高くなるとACE2が働いて血管が拡張して血圧が下がり、ACE1が働くと血管が収縮して血圧が上がります。通常は両者がバランスをとりながら働き、血圧を一定の状態に保ちます。新型コロナウイルスがACE2を利用して細胞に入り込むとACE2は十分に働くことができなくなり、ACE1とACE2のバランスが崩れて炎症を起こすことがあります。欧州人に多いACE1がよく働くタイプで発症傾向が強く、炎症がひどくなれば臓器の障害などにつながって重症化や死に至る場合が多くなると考えられます。
2020年11月16日掲載