みんなの日経読みこなし

企業読者インタビューVol.2 グロービス経営大学院 溝口 聖規様(教授)

会計や財務のプロはどのように日本経済新聞を活用しているのでしょうか。
紙も電子版も愛読し、紙の購読歴は30年以上というグロービス経営大学院の教員、溝口聖規さんに、日本経済新聞を読み始めたきっかけや購読の習慣化のコツをはじめ、ビジネスパーソンや経営者にとって数字を読むことがなぜ重要なのか、日本経済新聞の読み方や活用法などを詳しく語っていただきました。

紙と電子版の両方を活用しビジネスに強くなる。

社会人のたしなみとして、日本経済新聞の購読を始める

——日本経済新聞を読まれるようになったのはいつからですか?
 大学卒業後、監査法人に入所しました。その時、先輩や同僚らから「たしなみとして、日経を読んでおいたほうがいいよ」と。そんなものかと思って、なんの疑問もなく購読しはじめたのがきっかけです。
—— 購読歴は約30年になりますね。当時はどのような読み方をしていたのですか?
 担当する上場企業の方が自社のことはもちろん、他社の動きを気にしておられるので、業界の動向や株価の動きを見ておくようにとアドバイスを受けました。化学品メーカーや製鉄会社を担当していた際は、原油や鉄のスクラップの値動きなどにも気を配りながら読んでいました。
 今でこそ、新聞は隅々まで読みますが、読み始めたときには難しいと思ったこともありましたね。経済活動はもちろん、業界などの情報にも過去があり、現在があり、将来があります。例えば株価はある瞬間だけ切り取って見ても、適正な株価なのかどうかわからないですからね。斜め読みでもいいから、1カ月ほど読んでいるとなんとなく傾向がわかってきます。そんな感じでいいのだと、先輩からも言われました。日本経済新聞を読むには、最初はちょっと忍耐が必要かもしれませんね。
 実際、1カ月ほど毎日目を通していると、自分の関わる業界の動きなどがわかってきて、勇気づけられることもありました。少し我慢して継続することで、自分の中に情報を蓄積されて、読むのが面白くなってくると思います。
—— インターネットで情報がリアルタイムで取れる時代。新聞を読むことについて、変化を感じることはありますか?
 私が日本経済新聞を読み始めた30年ほど前は、金曜日に企業が決算などの大きな発表をすることが多かったんです。土曜日は休みで新聞を読む人が少なくなるので、企業にとってあまり都合がよくない情報も金曜日に発表されていたような気がします。
 今はインターネットに日々ダイレクトに情報が流れてきますが、当時は金曜日に発表された内容がわかるのは土曜の新聞が一番早かったのです。見落とせない情報が掲載されることがあるので「読んでおいたほうがいいぞ」と、上司らから言われたこともありましたね。それも懐かしい思い出です。

紙と電子版の両刀で、情報を効率良く収集

—— 現在は日本経済新聞をいつ読んでおられるのですか?
 朝食を食べながら、毎朝30分ほど目を通しています。全紙面を確認し、興味のあるものは読んでしまう。そこで読みきれないものは意識だけはしておいて、通勤途中など移動時間を使って電子版で読むというのが私のルーティンです。
—— 紙と電子版の両方を読んでおられるのですね。それぞれの特性をどのように感じておられますか?
 世代もあるのかなとは思いますが、紙に対する親和性が高い気がしますね(笑)。私にとって、紙は視野のなかに全てが収まる、一覧性の高さが魅力です。目の動きと手でページをめくる自分なりの速度にも慣れていて安心感があります。加えて、あの記事は一面のあの場所に載っていたなというように、記憶を定着させられるのも紙面ならではの利点ですね。
 一方、電子版は記事の扱いの大小というバイアスがかかっていないので、フラットな状態で読むことができるのがいいところです。
—— 電子版のほうが能動的に情報を取捨選択するイメージでしょうか。
 紙で細かい記事を読み落としてしまっていて、電子版を読んだ時に「こんな記事があったんだ」と気づかされたり、紙面では扱いが小さかった記事でも自分にとって必要な記事が目に入ったりする場合があります。また、情報をシェアしやすく、関連記事が下の方にまとめられているので1つのテーマを追っている時にその情報をすばやく得られるメリットがありますね。
 紙と電子版にはそれぞれ特長があるので、両者をうまく活用するのがいいんじゃないかと思います。
—— 溝口さんが毎日必ず読む紙面は?
 一面はもちろん、今なら株主総会の情報など、旬の話題が掲載されている総合面や経済・政策面はまず読みますね。会計や財務の情報などを発表する企業があるので、投資情報面も必須。仕事柄、投資関連やTOB(株式公開買い付け)、買収の記事のチェックも欠かせません。
 そのほか、近年重視されるようになった企業の非財務情報やSDGs(持続可能な開発目標)関連の記事が充実している金融経済面、ベンチャー企業の話題が得られるテック面、アップルやアマゾンといった海外の企業の会計に関する情報などを確認するため国際面にも目を通します。
—— 網羅的に情報を得ておられますね。
 個人的にはスポーツ面も楽しみにしているので、ほぼ全てのページを読んでいることになりますね(笑)。

会計・財務のスキルアップに欠かせぬビジネスや時事の知識

——グロービス経営大学院で会計や財務の講座を担当しておられますが、日本経済新聞の購読が仕事上で役に立っていることはありますか?
 MBA(経営学修士号)取得を目指す方をはじめ、単科を選んで受講されている方、企業から派遣された方など、受講者はさまざまな目的でグロービスを利用されています。受講者によって各講座の得手不得手にも濃淡があると思います。
 そんな中で、カネ系と呼ばれる会計や財務は、日常業務との関わりがない人にとって興味を持ちづらい分野です。そういった方々にただ理論だけを説明しても、理解するのは難しいと感じています。だから、学んでいることと実社会との接点があったほうがわかりやすい。そう考えて、時事ネタを講座の中で活用しています。
——日本経済新聞は事例の宝庫といえそうですね。
 講座の題材として日本経済新聞を頼りにしています。例えば、先日「日本郵政の自社株買い」に関する記事がありましたが、講座のなかでその事例を紹介しました。株主への還元強化や株価の維持向上などを目的として、自社株買いをする会社が増えています。
 そのほか、グロービスの業務の一環として、電子データや書籍を執筆するときにも新聞を活用しています。時事ネタをフックにして、会計のルールや用語の解説記事を書いているのですが、こういった企業があると事例を挙げるときにも日本経済新聞の記事は役立ちますね。
—— ほぼ全ての紙面に目を通すのは、それだけ幅広いジャンルの情報を講座や執筆に活用する必要を感じておられるからですか?
 グロービスには多忙な中でもスキルを高めるために学びたいというビジネスパーソンが多くいらっしゃいます。その方々の熱意に応えるために、私自身も情報や知識を常に磨く必要があると思っています。
—— 会計や財務に関連する情報だけでは足りないと。
 会計や財務というと数字だけを扱うと思っている方は多いでしょう。しかし、例えば会計監査は数字だけでなく、ビジネスを理解していなければできません。というのも、企業の活動が会計の基準やルールによって転換されて数字になっているので、会計にだけ詳しくても数字から企業の実態を把握することはできないからです。つまり、その企業で今何が起こっているのか、数字を通して表現されているのが、会計、財務なんです。
 特に経営者の方にとっては、数字が読めないのは自分でやっていることの状況把握ができないということです。状況把握ができなければ、自分の評価はできないし、他者に対して自分の目標や現在の進捗状況など、これだけのことをやっているというアピールもできません。また、自社の事業を熱っぽく語れば、共鳴してくれる人も一定数はいるかもしれません。しかし「それでどれだけもうかるのか」が聞きたい銀行や投資家に数字を語れなければ、どんなにすばらしいビジネスにもお金は集まりません。
—— 生きた会計、財務を学ぶことは、すなわちビジネスに強くなるということに直結するのですね。
 まさにそうです。一番大切なのは数字やルールを理解することではなく、ビジネスを理解することです。そういう意味でやはり、数字を理解した上で、新聞などから情報を得る努力はたしなみといえるでしょうね。

Interviewee

学校法人グロービス経営大学院 教授
溝口 聖規

グロービス経営大学院ではアカウンティングとファイナンスを担当している。
東証一部上場企業の社外取締役も務める。
公認会計士/日本証券アナリスト協会認定アナリスト/公認内部監査人/地方監査会計技術者

役職等は2021年6月1日現在のものです