海外市場の開拓を加速させる一方で、ビール各社は国内では新たな需要の掘り起こしに力を入れています。代表的な取り組みがアルコール分を一切含まない「ノンアルコールビール」の投入です。国内で先鞭をつけたのはキリンでした。2009年に「キリンフリー」を発売し、車を運転するドライバーや妊娠中の女性などの支持を得て大ヒットを記録。これに続きサントリーが「オールフリー」を、サッポロが「プレミアムアルコールフリー」を発売するなど、各社から商品投入が相次ぎました。現在では「ビールの代替品」としてだけではなく、新たな飲料として広く消費者に受け入れられています。ノンアルコールビールの販売量はまだビール類の数%に過ぎませんが、11年の市場規模は前年比で2割も増えており、今後も消費が拡大すると見られています。酒税がないため利益率が高いのもビールメーカーにとっては魅力です。数少ない成長分野をめぐる競争は今後ますます激しくなりそうです。
もちろん、ビール各社は収益の“本丸”であるビールの立て直しにも懸命です。アサヒがビールのトップブランドの「スーパードライ」から、黒ビール「アサヒスーパードライ・ドライブラック」を発売したり、キリンが生ビールの泡の部分を凍らせた「一番絞り フローズン〈生〉」を飲食店で提供するなど、特に主力ブランドのてこ入れの動きが目立ちます。
こうした積極的な取り組みが奏功し、ここにきてビール販売には復調の兆しが出ています。12年1~6月のビール大手5社のビールの課税済み出荷量は前年同期比2.0%増と同期間では6年ぶりにプラスとなりました。
ただし、これは11年の東日本大震災でビール工場が被災して出荷量が急減、この反動による増加という面も大きいとみられます。通年でプラスを維持できるかは最盛期の夏場にいかに売り込めるかにかかっており、下半期の各社の販売競争は一段と熱を帯びそうです。