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欧州危機で注目されている「CDS」ってなあに?

2012.6.18 掲載
ギリシャに端を発した債務危機で欧州が揺れるなか、信用リスクを回避する手段である「CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)」に注目が集まっています。ギリシャ国債などを対象とするCDS保証料率の変動は欧州各国の信用力を示し、欧州危機の先行きを見通すためのバロメーターにもなっているためです。今回はCDSとは何か、その基本的な仕組み、2008年秋のリーマン・ショックや欧州危機との関係などについて解説します。

CDSがリーマン・ショックを深刻化

CDSがリーマン・ショックを深刻化
 CDSの歴史はまだ浅く、開発されたのは1990年代半ば頃で、まず国際金融の中心であるロンドン市場で取引が始まりました。その後、米国をはじめ主要各国で活発に利用されるようになり、CDS契約のひな型が整備された2001年頃から取引量はうなぎ登りに増えました。業界団体の国際スワップデリバティブ協会(ISDA)によると、01年上期には1兆ドルにも満たなかったCDS取引残高は、07年下期には約62兆ドルに達しています。いかに市場が急速に広がったかがわかります。
 しかし、07年頃を境にCDSを取り巻く状況は一変します。米国ではこの頃から、サブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)の焦げ付き問題などを背景に金融機関の経営環境が急速に悪化。08年9月には米大手証券会社のリーマン・ブラザーズが経営破たんし、その直後には大手生命保険会社のAIGの経営が行き詰まっていることが明らかになり、米政府による救済が決まりました。この出来事に端を発する世界的な金融危機がいわゆる「リーマン・ショック」です。
 この時、事態を深刻化させた一因がほかならぬCDSでした。予想をはるかに上回る数の保険事故が起これば、保険金の支払いが多大になって保険会社の経営が揺らいでしまうのと同じように、大規模な経営破たんが相次いで起こればCDSの売り手となっていた金融機関の経営に大きな打撃となります。当時、AIGはリーマンを対象とするCDS関連商品の保証をしており、同社の破たんにより保証負担が急激に膨らみ経営危機に陥りました。
 もしもCDSの売り手であるAIGが経営破たんすれば、リーマン関連のCDSを購入していた金融機関は保証を得られず多額の損失を被り、連鎖的に破たんする恐れもありました。そこで政府はAIGに対する公的資金の投入を決定。さらに緊急経済対策を次々と打ち出しました。しかし金融機関の経営状態に対する疑心暗鬼が拡がるのを止めることはできず、金融機関同士の資金供給が滞る事態につながったのです。その後、各国政府の積極的な金融緩和策もあってリーマン破たんに始まる金融危機は収束しますが、CDSの取引残高はこれをきっかけに減少に転じます。
2012年6月18日掲載