しかし、この改革により代行部分を返上できたのは主に大企業の運営する厚年基金で、中小企業が運営する厚年基金の多くは、現在も代行部分を抱えたまま積み立て不足に苦しんでいます。国に返上するには代行部分の積み立て不足も埋め合わせしなければならず、経営体力に乏しい中小企業にとっては難しかったためです。
こうした中で先頃、企業年金制度を大きく揺るがす事態が起きました。2012年2月、AIJ投資顧問が企業年金から運用受託していた年金資産の大半を消失させていたことが証券取引等監視委員会の調べで明らかになったのです。
AIJは、相場変動に左右されずに高い収益を目指す運用戦略を掲げて受託資産を急速に増やし、2011年9月末時点で124の企業年金から1984億円もの年金資産を受託していました。しかしその実態は、大変ずさんなものでした。毎年損失を出していたにもかかわらず運用成績を偽って顧客に報告し、さらに受託資産を集めて損失を膨らませていたのです。しかし、積み立て不足に苦しんでいた多くの基金は、なんとか状況を打開しようと高収益をうたうAIJに相次いで運用を委託していました。その結果、AIJに資金が殺到し、今回の被害が極めて深刻なものとなったわけです。
AIJの運用実態の全容解明はこれからですが、年金資産の大部分は戻ってこないとみられ、企業年金の積み立て不足はさらに深刻化し、破たんが相次ぐことが懸念されています。このため現在、被害の公的な救済措置の可能性や同種の問題の再発防止などが議論されているところです。
公的年金の給付額が減額されている中、企業年金の役割は重要になりつつあるともいえます。今回のAIJの一件が、企業年金の構造問題を再認識させ、今後のあり方についての議論に一石を投じたのは間違いなさそうです。