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「スーパーコンピューター(スパコン)」って何がすごいの?

2012.5.21 掲載
気象予測から天体運動の解析といった科学研究はもちろん、自動車や各種ハイテク製品の設計、新薬の開発など幅広い産業分野で活用されているスーパーコンピューター(スパコン)。2011年には官民で共同開発された「京(けい)」が性能ランキングで世界首位に認定されるなど、日本のスパコン研究開発は世界の最先端を走っています。一方で、米国や中国といったライバル国とのスパコン開発競争、メーカー間の受注競争もますます熱を帯びています。今回はスパコンの仕組み、必要とされる理由、スパコンをめぐる各国の開発動向などについて解説します。

巻き返しを図る米国、台頭する中国

巻き返しを図る米国、台頭する中国
 現在、京を使ったさまざまな研究プロジェクトが始動しています。例えば富士通と東北大学は、京を使って津波の動きを3次元で再現する世界初のシステムの共同開発を進めています。
 民間転用も始まっています。富士通は2011年11月から京をベースにした商用のスパコンを発売。最上位機種の計算能力は京の2倍以上と世界最高水準です。企業や研究機関は現在主流の50倍以上もの計算能力があるスパコンを利用できるようになり、幅広い分野で研究開発の効率向上などが期待されています。
 近年では、科学技術振興や資源探査の用途で新興国でもスパコン需要が伸びています。富士通はこうした新たな需要も取り込みたい考えです。ライバルメーカーのNECも同じく11月、スパコンの次世代機の開発を開始し、2013年にも製品化する計画を明らかにしています。
 ただし、今後も日本が性能ランキングで首位を守れるかは予断を許しません。京が世界一になった11年11月のランキングで3位の米オークリッジ国立研究所にスパコンを納入した米クレイ社は、米イリノイ大学が開発中のスパコン「ブルーウオーター」で世界一の奪還を目指しています。近年では中国勢の台頭も著しく、10年11月のランキングでは中国の国防科学技術大学が開発した「天河1号A」が1位の座を獲得しています。すぐに京にその座は奪われたものの、中国は経済成長を背景に開発費を惜しみなく注ぎ込んでおり、近いうちに返り咲く可能性は十分とみられています。
 米国や中国は将来を見据え、国家レベルで「エクサスケール・コンピューター」と呼ばれる次世代スパコンの開発計画も進めています。「エクサ」とは10の18乗を意味し、計算能力は京の100倍以上にも達します。日本としては安閑としていられない状況です。「世界一」という名誉とそれを実現する高度な研究基盤は、世界中の優れた研究者を吸引する力があります。スパコンの研究開発は科学技術と産業の競争力の基盤となるだけに、引き続き日本の奮闘を期待したいところです。
2012年5月21日掲載