スパコンの開発を先導してきたのは、コンピューターを生み出した米国でした。もともとはミサイルの弾道計算などの軍事利用が中心でしたが、現在では産業全般の競争力の向上につながることから各国で開発競争が繰り広げられています。日本企業も1970年代頃から相次ぎ参入し、着実に性能を向上させてきました。政府もスパコンを国家の基幹技術に位置付け、官民共同で研究開発プロジェクトを推進しています。
こうしたなかで、2011年には日本の科学・産業界にとって嬉しいニュースが飛び込んできました。6月、日本のスパコン「京」が世界のスパコンの性能を集計する「TOP500プロジェクト」で世界一に認定されたのです。日本勢が1位になったのは02年~04年の海洋研究開発機構の「地球シミュレータ」以来7年ぶりのことでした。
京は、文部科学省が推進する研究開発プロジェクトのもと、理化学研究所と富士通が共同で研究開発を進めているスカラー型のスパコンの愛称です。世界最高クラスの性能を持つCPUを8万個以上つなぎ、1秒間に1京回(1京は1兆の1万倍)の計算速度を目指していたため、この名称がつけられました。ちなみに1京回の計算とは、世界人口70億人が電卓を使って1秒間に1回のペースで計算して、約17日間かけてやっと終わるというものです。これを1秒間でやることを目指した京の能力がいかに驚異的かおわかりでしょう。京は11年6月、1秒間に8000兆回以上という計算能力を実現して世界一の栄冠に輝いた後、さらに11月には1秒間に1京回という目標も達成し、首位の座を守っています。
ただ、京のこれまでの歩みはけして平たんなものではありませんでした。スパコンの開発には莫大な費用がかかります。その負担の重さから09年にはNECと日立製作所がプロジェクトから離脱してしまいました。
さらに2009年には研究開発中止の危機にも見舞われます。国の無駄遣いを洗い出すいわゆる「事業仕分け」において、京にかかる費用(2010年度で約270億円)の大きさが問題視され、計画の事実上の凍結方針が打ち出されたのです。仕分け担当の議員の一人が「なぜ世界一でないといけないのか」と問い詰め、話題になったので記憶している人も多いでしょう。この仕分け結果に対しては、科学技術団体やノーベル賞受賞科学者らが批判するなど、その是非について国内でさまざまな議論が巻き起こりました。結局その後、政府は計画を復活する方針に転じ、文部科学省は当初の開発計画を見直しました。これにより予算がやや減額される形で計画は続行されることになり、辛くも開発中止の危機から脱して世界一の快挙にこぎつけたのです。