新たな施策やイベント、事業の効果を金額によって明快にアピールできるとあり、現在ではさまざまな経済効果試算を目にする機会が増えました。ただし、その数字が何を示しているかには、注意しなければなりません。
なぜなら、計算の前提としてどのような需要を盛り込むのか、また2次波及効果まで考慮するのか否かなど、じつは一口に経済効果といってもその内容はまちまちだからです。上記の五輪誘致の例では、グッズ販売などの細かな需要拡大効果をどれだけ盛り込むか、あるいはスタジアムのような施設建設の影響のみを計算するかによって結果は大きく違ってくるはずです。
極端な場合、同じことについての経済効果を試算しても、正反対の結果が出ることもあります。現在、国内ではTPP(環太平洋経済連携協定)と呼ばれる貿易自由化交渉を進めるかどうかが議論されていますが、参加に慎重姿勢を示している農林水産省はTPPによる貿易自由化で実質国内総生産が7.9兆円に減ると試算。一方、TPPに積極的な経済産業省はTPPに参加せず自由化しないと10.5兆円減るとしています。これは、農水省は農業と関連産業、経産省は自動車と機械など主力産業への影響だけを計算しているためです。このように計算する人の思惑が如実に出ることがある点には注意が必要でしょう。
また、経済波及効果の試算に利用される産業連関表は5年に1度しか作成されないので、この間の技術革新など、経済のダイナミックな変化による影響は反映されません。実際の経済動向には景気動向や為替変動なども複雑に絡み合うために、波及効果の試算結果の正確性を検証することも困難です。このように経済効果の試算にはさまざまな限界があります。
とはいえ、政府が新たな施策を導入する際はもちろん、企業が大規模な商業施設建設を検討している場合などにも、目安になる数字がなければ実施すべきかどうか判断できません。その意味で、産業連関表を使った経済波及効果の試算のしくみは大変便利なものです。試算は万能ではないという点を十分に理解した上で、上手に活用していきたいものです。
なお、総務省のホームページでは、需要の数字を打ち込むだけで、各産業部門にどのような経済波及効果が及ぶかを表示してくれる計算フォームが提供されていますので、利用してみるのもよいでしょう。