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人材が成長の源泉、広がる人的資本投資

2022.10.17 掲載
企業が抱える人材を「人的資本」と捉え、その価値を引き出すことで生産性の向上やイノベーション(技術革新)の創出につなげようとする動きが広がっています。企業価値の源泉が人材が持つ知識やノウハウなどのソフトに移りつつあるためです。企業の人的資本への投資家の関心も高まっており、政府は早ければ2023年3月から上場企業など約4000社に人的資本情報の開示を義務付け、企業の競争力底上げを後押しする方針です。今回は人的資本蓄積の方法や背景、情報開示の内容などについて解説します。

2.人的資本の情報開示へ7分野19項目の指針

2.人的資本の情報開示へ7分野19項目の指針
 厚生労働省の推計によると、国内総生産(GDP)に占める日本企業の能力開発費の割合は2010~14年の平均で0.1%にとどまっています。米国の2.1%、フランスの1.8%、ドイツの1.2%など欧米と比べて低い水準で、人材投資の遅れが目立ちます。経済協力開発機構(ОECD)によると、仕事に関連するリスキリングへ参加する人の割合も日本は35%で、50%前後の欧米を下回っています。人的資本情報の開示でも欧米が先行しています。米国は20年に全上場企業を対象に従業員数の開示を義務化。欧州連合(EU)は14年に従業員が500人を超える企業に開示を義務付け、24年から第三者監視の義務化や開示対象企業の拡大を予定しています。
 この状況に対し、日本では21年6月にコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)が改訂され、人的資本に関する情報開示・提示と、取締役会による実効的な監督が上場企業に求められることになりました。22年5月には経済産業省が20年9月にまとめた「持続的な企業価値向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~」に、若年層の経営人材への抜てきや社員の学び直しの機会充実など効果的な事例を加えた「人材版伊藤レポート2.0」を公表しました。
 政府は人的資本の情報開示を促すため22年8月、「スキル」「採用」「ダイバーシティー」など企業に開示を推奨する7分野19項目の指針を公表。早ければ23年3月期の有価証券報告書から、企業に人的資本情報の開示を義務付ける方針です。対象は上場企業と大規模に有価証券の募集や売り出しをする一部の非上場企業の約4000社。開示を求めるのは6項目で、女性の管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間の賃金格差の3項目は数値の明記を義務付けます。これ以外に「人材育成方針」「社内環境整備方針」「測定可能な指標と目標」の積極的な記載を求めます。
2022年10月17日掲載