地球の上空60キロ~1000キロメートルには大気中の酸素などが電磁波を吸収してできた、電気を帯びた粒子が層をつくる電離圏があります。太陽フレアの影響で電磁波がたくさん届いた場所では、電離圏の粒子の密度が増して濃さにばらつきが出ます。位置がわかるGPSは人工衛星から送られる電波が地上に到達するまでの時間を利用して位置を測ります。電離圏の電気を帯びた粒子は衛星からの電波が地上に届くのを遅らせますが、粒子の密度がばらつけば、電波が地上に到達する時間を正確に測れません。太陽フレアが起こるとGPSの測位に最大で数十メートルのずれが生じると予測されています。GPSはカーナビゲーションシステムやスマートフォンに搭載されており、目的地までの案内の位置精度が低下します。自動運転車やドローン(小型無人機)にも使われており、不正確な位置情報が原因で衝突事故が起きる恐れもあります。
電離圏は地上からの電波を跳ね返す役割も果たしており、飛行機や船などの長距離通信に利用されています。電離圏が大量の電磁波を受けると電波を吸収するようになり、通信障害が起きる可能性もあります。
高いエネルギーを持つ粒子や電気を帯びたガスが地上に降り注ぐのを通常は地球の磁場が防いでいますが、太陽フレアで飛来する粒子は磁場の内側まで入り込むことがあります。その場合、高い高度を飛ぶ国際線の旅客機内での被曝(ひばく)を招いたり、送電線に異常な電流が発生して電力設備が故障し停電したりする恐れがあります。磁場に守られない人工衛星の誤作動を引き起こすこともあります。
海外では実際に太陽フレアによる被害も出ています。1989年の太陽フレアではカナダのケベック州で約10時間に及ぶ大規模停電が発生。2022年2月には米宇宙企業のスペースXの通信衛星49基中40基が打ち上げ直後に利用不能になりました。