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緊急事態に対応、憲法改正論議の機運高まる

2022.9.5 掲載
2022年7月の参院選で、憲法改正に前向きな自民、公明、日本維新の会、国民民主の4党が総議席数の3分の2以上を維持しました。改憲勢力は既に衆院で3分の2以上を占めており、改憲発議に必要な議席数を引き続き衆参両院で保ちました。ロシアのウクライナ侵攻などをきっかけに、非常時に政府の権限を強める緊急事態条項を憲法に盛り込むよう求める声が上がっており、改憲論議は現実味を増しています。今回は憲法改正にはどのような手続きが必要か、なぜ改憲が議論になっているのかなどについて解説します。

3.衆参両院それぞれ総議員の3分の2以上が賛成なら国民投票を実施

3.衆参両院それぞれ総議員の3分の2以上が賛成なら国民投票を実施
 改憲の手続きは衆院議員100人以上または参院議員50人以上の賛成で、改正原案を国会に提出することから始まります。衆参両院の憲法審査会で審査した後、出席議員の過半数の賛成で可決。それぞれの本会議で総議員の3分の2以上の賛成で可決すれば発議となり、国民に提案したとされます。憲法改正の発議後、国会議員から選任された委員でつくる「国民投票広報協議会」が設置され、どのような改正なのかを知らせる公報を作成して国民に配布。テレビ放送や新聞広告などを通じても広く周知します。18歳以上が投票できる国民投票を発議から60~180日以内に行い、賛成が有効投票数の過半数なら改憲が実現します。
 改憲に前向きな自民、公明、日本維新の会、国民民主の4党は現在、衆参両院とも総議席数の3分の2以上を占めており改憲発議に必要な議席数を満たしています。岸田文雄首相は2022年7月、憲法改正について「できる限り早く発議にいたる取り組みを進める」と表明しました。しかし、議論のたたき台となる自民党案に対し、他の各党の主張や賛否には違いがあります。自衛隊の憲法明記について、維新は9条に明確に規定すべきだと主張。公明は9条の1項、2項は堅持するとの立場で、22年7月の参院選公約では別の条項で自衛隊を明記することについて「引き続き検討を進めていく」と慎重な姿勢を示しました。国民民主は参院選の公約で「9条は自衛権行使の範囲、自衛隊の保持と統制に関するルール、2項との関係の3つの論点から具体的な議論を進める」としています。また、緊急事態条項の是非について、維新は緊急事態条項の創設を参院選の公約に盛り込んでおり、国民民主も国会議員の任期延長規定の創設に前向きなのに対し、公明は任期延長案に関して「論議を重ねる」との見解を示しています。
 主要な民主主義国の憲法のうち第2次世界大戦以降、改正されたことがないのは日本の憲法だけです。憲法改正をめぐる議論は22年の通常国会で活発になっており、衆院の憲法審査会の開催回数は過去最多の16回で、参院の憲法審も7回開かれました。首相が衆院を解散しないかぎり向こう3年間は大きな国政選挙がないため、自民党は各党が憲法改正の議論をしやすい期間とみて働き掛けを強める方針です。
2022年9月5日掲載