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TPP拡大、英に続き中台などが加盟申請

2022.1.17 掲載
日本やカナダ、オーストラリアなど11カ国が参加する環太平洋経済連携協定(TPP)が枠組みの拡大に動き出しました。英国と加盟交渉を始めたのに続き、2021年9月には中国と台湾が相次ぎ加盟を申請しました。今回はTPPがどのような協定で、加盟拡大に向けた課題は何かなどについて解説します。

3.中国の加盟に多くの課題、参加国の姿勢に温度差

3.中国の加盟に多くの課題、参加国の姿勢に温度差
 発足以来11カ国体制のTPPに21年に英国に続き、中国と台湾が相次ぎ加盟を申請しました。21年末にはエクアドルが申請、韓国も申請に向けて国内の手続きを始めました。英国については閣僚級のTPP委員会が関税や投資のルールなど加盟基準を満たすかを審査する作業部会を設置し、加入に向けた交渉を始めました。審査に1年近くかかるとの見方があるものの加盟は実現しそうです。
 中国の申請に対しては加盟国の間に温度差があります。日本は「高いレベルを満たす用意が本当にできているのかどうか見極めていく必要がある」などと閣僚が慎重な姿勢を示しました。オーストラリアも同国が新型コロナウイルスの発生源に関して独立調査を求めたことに反発した中国が豪産大麦やワインに高関税を課し、一部の食肉や石炭の輸入を制限したことを問題視。中国が高関税などの問題を解決しない限り、中国との交渉入りを支持しないことを示唆しました。メキシコも慎重な姿勢です。これに対しシンガポールとマレーシアは歓迎を表明しました。
 中国のTPP加盟には多くの課題があります。TPPは補助金などによる国有企業の優遇を禁止し、政府の調達で国外企業を差別することを原則認めていませんが、中国の現状はそれとかけ離れています。データ流通の透明性や公平性確保の原則に対しても、外資系企業が許認可の取得などでハイテク技術の開示を地方政府などから迫られる例が後を絶ちません。
 中国は米国がTPPから離脱した隙をつき、アジア太平洋地域で貿易ルールをつくる側となって主導権を握りたいという思惑があるようです。巨大な国内市場を武器に自由な国際秩序を軽視し、自国に都合のよい貿易ルールづくりを目指す中国を受け入れれば、TPPの本来の役割がゆがむ恐れがあります。
 一方、台湾は現状でもTPP加盟の要件をほぼ満たしているとされます。しかし、TPPへの加盟には既存の参加国が全会一致で認める必要があります。加盟が認められれば、その後の加盟に拒否権を持つことになり、参加国は対立する中国と台湾のどちらかを選ぶ踏み絵を迫られています。安全保障上の中国の脅威が高まるなか、加盟国は経済の観点だけでは判断できない状況です。
 日本などは米国のTPP復帰を期待していますが、バイデン政権の支持基盤である労働組合はTPPに反対しており、野党の共和党にも復帰に否定的な意見が根強いため再加盟は望み薄です。米国は中国のTPP加盟申請などの動きに対抗するため、デジタルや技術、インフラ投資、サプライチェーン(供給網)、サイバーセキュリティ―などの分野のルールづくりで協力する「インド太平洋経済枠組み」を22年に立ち上げる方針です。
2022年1月17日掲載