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エネルギー基本計画、50年の温暖化ガス「ゼロ」へ再生エネを最大限導入

2021.12.20 掲載
2050年に温暖化ガス排出量の実質ゼロ実現に向けて、政府は21年10月、国の中長期的なエネルギー政策の方針を示す新たなエネルギー基本計画を決定しました。計画では再生可能エネルギーを「最優先に最大限導入する」方針を掲げました。今回は新エネルギー基本計画で電源構成がどのように変わるのかや、目標実現への課題などを解説します。

2.再生エネの主力電源移行のカギ握る太陽光発電

2.再生エネの主力電源移行のカギ握る太陽光発電
 再生エネの内訳は太陽光が14~16%、風力が5%、地熱が1%、水力が11%、バイオマスが5%です。再生エネが主力電源になるカギを握るのが太陽光です。政府は欧州で広がる洋上風力発電の本格的な導入に力を入れていますが、工事期間が長く30年度時点の稼働は限られます。このため、開発期間が短い太陽光に頼らざるを得ないからです。再生エネで発電した電気をあらかじめ決められた価格で電力会社が買い取る「固定価格買い取り制度(FIT)」が12年に始まったことで、再生エネが安定収益を期待できる投資対象となり、太陽光は予想を超える早さで導入が進みました。経済産業省によると、日本の国土面積当たりの太陽光導入容量は既に主要国の中で最大で、平地面積への導入量はドイツの2倍になっています。
 さらに導入を拡大するには太陽光パネルの置き場所の確保が必要です。日当たりのよい平地は限られているうえ、一部の事業者が山間部の斜面を切り開いて大規模太陽光発電所(メガソーラー)を設け、大雨による崩落事故を招く問題も起きています。太陽光は発電量が天候によって変わるため、それに合わせて別の電源で調整する必要がありますが、電力をためられる蓄電池は価格が高く、電気料金の上昇につながりかねません。国内の送電網が大手電力会社ごとに分かれており、各地域を結ぶ送電線が十分に整備されていないことも導入の妨げになります。需要を上回る量の発電が予想されると、電力会社が太陽光の事業者に発電を止めるよう要請することがあるからです。地域間の送電網を増強するには大きな投資と長い開発期間を要します。
 原子力の比率を20~22%にするには、電力会社が再稼働に向けて原子力規制委員会に規制基準の適合性審査を申請した27基の原子力発電所すべての稼働が必要になります。しかし、東京電力福島第1原発の事故後に再稼働したのは10基だけで、19年度の実績は6%にとどまっています。運転の可否を決めるのは安全審査を担う規制委と原発が立地する自治体で、国が目標を掲げて旗を振っても再稼働の拡大は見通せません。原発の再稼働が進んだとしても、使用済み核燃料を再処理する際に出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場や、原発から出る放射性廃棄物の処分場は決まっていません。
 電源構成に今回初めて盛り込まれた水素やアンモニアは火力発電所の燃料に混ぜて導入しますが、必要な量をどう生産するかが課題です。天然ガスなどの化石燃料からつくると、温暖化ガス排出を実質ゼロにするために二酸化炭素(CO₂)の回収や貯留をしなければなりません。再生エネで水を電気分解する方法でも生産できますが、コストが高くなります。水素の導入には海外から大量に輸入する輸送インフラの整備も求められます。
2021年12月20日掲載