ビジュアル・ニュース解説

世界で半導体の不足深刻、車の減産に波及

2021.6.21 掲載
パソコンやスマートフォン、自動車などの生産に欠かせない半導体の不足が世界で続いています。とりわけ自動車向けの不足は深刻で、調達できない自動車メーカーの減産が相次ぎました。今回は半導体不足が続く背景やその影響、今後の見通しなどを解説します。

3.需要の長期的な拡大見込みメーカーは増産投資に前向き

3.需要の長期的な拡大見込みメーカーは増産投資に前向き
 自動車メーカーは車載半導体の安定調達に向けて動き始めました。独フォルクスワーゲン(VW)は部品在庫を必要最小限にする「ジャスト・イン・タイム方式」を改め、供給網全体で従来より多く在庫を持って天災などの一時的な影響を抑えるほか、半導体の長期契約を進めて半導体メーカーやファウンドリーに十分な生産能力の確保を求めます。トヨタや独ダイムラーも半導体メーカーと長期契約を検討しています。自動車業界の動きに対応し、TSMCは21年5月、同年に車載半導体を20年比で6割増産すると発表しました。ただ、同社は増産の時期や手法は明らかにしておらず、当面どこまで需給が改善するかはわかりません。一方、インフィニオンやNXPセミコンダクターは目立った生産能力の増強を打ち出していません。
 半導体業界はこれまで半導体不足と供給過剰の「シリコンサイクル」と呼ばれる市況変動を繰り返してきました。製品が不足すると部材確保のため実需以上の注文が入り、各社が増産投資を進めたところで注文のキャンセルが出ることが少なくありませんでした。半導体工場の新設には通常、着工から数年かかるうえ巨額の資金が必要なため、半導体各社は過剰生産による値崩れを恐れて増産には慎重に対応してきました。しかし、半導体需要は長期的にも拡大を続ける見通しです。半導体市場は今後10年で2倍以上の規模に膨らむと予測する調査もあり、半導体メーカーは増産投資に前向きになっています。TSMCは21年の設備投資計画を7%上方修正し、サムスン電子は同年に半導体部門に3兆円を超える設備投資を計画しています。
 半導体の供給不安で各国は調達リスクに敏感になっており、自国の半導体生産能力を高めようとする動きが出ています。米国のバイデン大統領は台湾への依存リスクの高まりや中国の台頭を背景に米国内の生産拡大支援に意欲的で、TSMCや米インテルは新工場の建設を計画しています。米国内に工場や研究開発拠点を設ける企業に5年間で計390億ドル(約4.3兆円)の補助金を出すことを検討する法案も議会で審議中です。欧州連合(EU)は半導体を含むデジタル分野に今後2~3年で1450億ユーロ(約19兆円)を投資する方針です。日本は21年6月に決定した成長戦略に半導体の製造・開発拠点の国内誘致へ集中投資することを盛り込み、開発などを後押しする基金を現在の2000億円から大幅に拡充する方針です。
2021年6月21日掲載