ビジュアル・ニュース解説

温暖化ガス排出削減、一気に目標高く

2021.6.7 掲載
温暖化ガス排出量を2050年までに実質ゼロにする目標を明記した改正地球温暖化対策推進法が2021年5月に成立しました。政府は脱炭素を実現するため同年4月、温暖化ガス排出量を30年度に13年度比で46%削減する目標を掲げ、これまでより削減幅を大幅に拡大しました。ただ、目標達成への道筋を明確に描けているわけではなく、対策の具体化が急務となっています。今回は脱炭素化の現状と課題について解説します。

2.再生エネと原子力の脱炭素電源の割合を過半に

2.再生エネと原子力の脱炭素電源の割合を過半に
 温暖化ガス排出の実質ゼロを実現するには、排出量の約4割を占める発電部門の脱炭素化が必要です。政府は30年度の電源構成について、再生エネを30%台後半にし、原子力は20%を維持することで、発電量に占める脱炭素電源の割合を当初想定の40%台から過半に引き上げ、排出量の大半を占める火力発電への依存度を下げることを目指します。この実現のため再生エネ普及の主力の太陽光は、再生エネの導入促進区域を自治体が定めて環境影響評価(アセスメント)の手続きを簡素化する環境省の制度や、荒廃農地の転用促進などによって導入の上積みを目指します。
 電力会社は火力発電の温暖化ガス排出の実質ゼロに向けて、燃料のアンモニアへの切り替えを進めています。アンモニアは燃やしてもCO₂を出さず、既に生産や運搬のインフラが確立しているため、燃料に使うのに追加の投資が少なくて済みます。東京電力ホールディングスと中部電力が折半出資するJERAは21年6月、愛知県にある碧南火力発電所で燃料の20%をアンモニアにする実証実験を開始。40年代にはアンモニアだけを燃料にする発電を実現する計画です。
 脱炭素の切り札として注目されているのが水素です。水素は燃やしてもCO₂を出さず、水を電気分解すれば無限に作れます。水素を作るのに必要な電力を太陽光や風力などの再生エネで賄い、製造した水素をガスや液体水素の形で蓄えておけば発電用や原料用として供給でき、夜間に発電できなかったり気象条件に左右されたりする再生エネの弱点を補うことができます。水素と酸素を化学反応させて電気をつくる燃料電池にも使われます。燃料電池を活用すれば、家庭やオフィスビルの省エネ化、バスやトラックなど商用自動車の低炭素化を加速できます。既に燃料電池車(FCV)や燃料電池バス(FCバス)が実用化され、FCバスの運行が始まっています。
 再生エネと水素を組み合わせた実証プロジェクトも始まっています。新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)が東芝や東北電力、岩谷産業などと福島県浪江町に建設した世界最大級の水素製造拠点「福島水素エネルギー研究フィールド」が20年3月に稼働しました。同設備は2万キロワットの太陽光発電設備を使って水を電気分解し、FCV560台分を満タンにできる水素を製造・貯蔵できます。
 オーストラリアでは川崎重工業やJパワーなどが現地の電力大手と組み、低品位の石炭の褐炭から水素を製造し、専用の運搬船で日本に輸送する実証事業を進めています。採掘した褐炭を乾燥させて砕き、酸素を注入して水素をつくっており、1日あたり2トンの褐炭から70キログラムの水素ができます。水素は冷却して液化し、専用船で日本に運びます。
2021年6月7日掲載