ビジュアル・ニュース解説

デジタル通貨、世界の中央銀行が発行へ準備

2021.1.18 掲載
世界でデジタル通貨発行の機運が高まっています。米フェイスブックの発行構想をきっかけに、各国の中央銀行が発行の準備を開始。中国は2022年の発行を目指し、大規模な実証実験で先行しています。今回はデジタル通貨の概要や発行に向けた動きなどについて解説します。

2.フェイスブックの発行構想に各国が懸念

2.フェイスブックの発行構想に各国が懸念
 米フェイスブックは2019年、デジタル通貨「リブラ」の発行構想を公表しました。リブラはビットコインと同様、情報の改ざんが難しいブロックチェーンを使いますが、発行の裏付けとして米ドルやユーロなど複数の法定通貨の資産を持ち、価格が安定するようにします。銀行を介さず、スマートフォン(スマホ)で利用者間の送金や買い物の決済ができるようにするものです。
 これに対し、各国の政府や中央銀行が懸念を示しました。世界に約27億人いるフェイスブックの利用者が国境を越えてリブラを使えばリブラが外貨のようになってしまい、政策金利や国債の売買で法定通貨の価値をコントロールする中銀の金融政策が及ばなくなるからです。不正取引に使われる恐れもあります。今の国際送金は厳格に本人確認をして取引が監視されますが、匿名取引ができればテロや麻薬取引、脱税などに使われかねません。欧州連合(EU)は20年9月、発行の事前承認制や裏付け資産確保の監督、ルール違反への罰金制度の導入など厳しい規制を盛り込んだデジタル通貨の規制案を公表しました。
 フェイスブックは批判を受けて、リブラを複数の法定通貨で裏付ける仕組みから単一の通貨による裏付けに修正。リブラを「ディエム」に改称し、まず米ドルを裏付けとするディエムを21年にも発行することを目指しています。
 各国の中銀はリブラ構想を批判する一方、対抗策として自前のデジタル通貨発行の検討を始めました。中銀が発行するデジタル通貨は「CBDC」と呼ばれます。CBDCは民間ではなく中銀が発行・管理する法定通貨なので、現金と同様にどこの店でも使え、発行者の破綻で使えなくなるリスクは限られます。受け取る側にとっても即時に決済され、クレジットカードによる支払いのように入金が遅れることがない利点があります。
 国際決済銀行(BIS)が19年後半に実施したCBDCに関する調査によると、世界の中銀の約8割が「何らかの作業に取り組んでいる」と回答。全体の1割が3年以内、2割が6年以内に発行する可能性が高いと答えました。新興国では既にCBDCを正式発行した国もあり、20年10月には中米のバハマが世界初のCBDC「サンドダラー」を、カンボジアは「バコン」を相次いで発行しました。
2021年1月18日掲載