ビジュアル・ニュース解説

次世代の計算機・量子コンピューター、実用化へ前進

2020.7.6 掲載
次世代の超高速計算機として期待される量子コンピューターの研究開発が加速しています。米グーグルが量子コンピューターを使って複雑な計算問題をスーパーコンピューターより大幅に短い時間で解き、実用化への道筋が見えてきました。今回は量子コンピューターの動作の仕組みや、その活用分野、今後どのような問題が懸念されるかなどについて解説します。

2.組み合わせ最適化問題を解く「量子アニーリング式」

2.組み合わせ最適化問題を解く「量子アニーリング式」
 量子コンピューターには「量子ゲート式(ゲート式)」と「量子アニーリング式(アニーリング式)」などがあります。ゲート式は汎用性があってあらゆる計算処理に使え、従来のコンピューターの上位互換機といえます。グーグルや米IBM、米マイクロソフト、米インテルなどが開発にしのぎを削っています。グーグルは2019年、最先端のスーパーコンピューターが約1万年かかる計算問題を量子コンピューターを使って3分20秒で解き、従来のコンピューターの能力を上回ることを実証したと発表しました。ただ、ゲート式は大規模化と安定性の両立が難しく、多くの専門家は本格的な実用化が20年以上先になると考えています。
 一方、東京工業大学の西森秀稔教授らが提唱した基礎理論を応用したアニーリング式は、できることが「組み合わせ最適化問題」を高速で解くことに限られます。組み合わせ最適化問題とは無数の選択肢の中から最適な組み合わせを効率よく導き出すものです。例えば物流なら、運転手やトラック、荷物をどう組み合わせて、どこの地域からどういう経路で配達するのが最適なのかということです。考慮すべき要素は運転手のスケジュールや人件費、労働の適正さ、燃費、荷物それぞれの運搬の緊急性、配達時間、渋滞回避など無数にあり、最適な答えを導くのは極めて難しいうえ膨大な時間がかかります。組み合わせ最適化はこのほか、工場の生産工程や新薬候補物質の分子構造、交通渋滞の緩和、金融取引のリスクなど、企業活動や社会インフラにかかわる多くの問題が対象となります。
 アニーリング式の開発はゲート式に先行しており、カナダのベンチャー企業ディーウエーブシステムズが11年にアニーリング式量子コンピューターを初めて商用化。その後継機を世界の一部の企業が既にクラウド経由などで利用しています。同社は5000量子ビットを搭載する次世代機を20年半ばから販売する予定です。日本ではNECが産業技術総合研究所や東京工業大学などと共同開発を進めており、23年ごろの実用化を目指しています。
 政府は量子コンピューターなど量子技術の早期実用化に向け、20年度から5年間で産官学一体の研究開発体制を整える方針です。司令塔役を担う組織の下に8テーマの研究開発拠点を設け、基礎研究から技術実証、知財管理、人材育成まで包括的に取り組みます。量子コンピューターの研究開発拠点を理化学研究所に、量子コンピューターがどんな分野に利用できるかを研究する拠点は東京大学にそれぞれ設置する計画です。
 量子コンピューターの実用化を見据え、企業は成長に活用するために早くも使い道を探り始めています。武田薬品工業は新薬開発への利用を目指しており、JSRは新たな感光材料の開発を試みています。海外ではフォルクスワーゲンがバス経路の最適化への利用を試行したほか、欧州エアバスは航空機の機体設計などに活用を狙っています。
2020年7月6日掲載