感染症の大規模な流行に対し、人類は様々な方法で対処してきました。通常、最初に感染者を一定の場所に隔離することによるウイルス・病原菌の封じ込めが行われますが、いったんウイルスなどが広がった後では完全な封じ込めは難しいと考えられています。
2003年に封じ込めに成功したとされるSARSは、発病していない潜伏期や感染の初期には他人にほとんど感染せず、重症の肺炎などを併発した段階でのみ感染したために、重症患者の隔離によってウイルスが広がるのを阻止できました。しかし09年の新型インフルエンザや今回の新型コロナウイルスは、潜伏期や無症状・軽症の感染初期にも感染する可能性があるため、感染者を完全に隔離できませんでした。
薬を使った対策としては、感染や発病、重症化を予防したり、治癒を促したりするワクチンや抗ウイルス薬などの開発があります。多くの場合、感染予防の決め手となるワクチンは毒素を弱めたりなくしたりした病原体や、毒素そのものを無毒化したものです。病原体に感染する前にあらかじめ人の体にワクチンを投与しておけば、体内にその病原体を攻撃する「抗体」と呼ばれるタンパク質ができる免疫という仕組みがつくられます。
新型コロナウイルスのワクチン開発は先進各国で進められています。欧州連合(EU)の欧州委員会は20年3月、ドイツの新興企業キュアバクのワクチン開発を支援するため最大8000万ユーロ(約96億円)を提供することを発表しました。米ジョンソン・エンド・ジョンソンは同月、ウイルスの遺伝子情報を使った短期で製造できるワクチンを開発し、臨床試験(治験)を20年9月までに始めると発表。このほか、米モデルナや日本のアンジェスも類似の技術で開発を進めています。
また、治療薬やワクチンの研究開発を支援するため20年5月にEUが主導して開かれた国際会議で、日本や欧州各国、カナダ、オーストラリアなど40を超える国や機関が合わせて74億ユーロ(約8500億円)を拠出することを表明。早期の開発・実用化を目指しています。
ワクチンは有効性と安全性を十分に検証した上で提供する必要があるため、通常は実用化に10年近くかかります。いまだに有効性の高いワクチンが開発されていないエイズウイルスのように、ウイルスによっては開発が難しいこともあり得ます。開発に成功しても、ワクチンの接種で本来ウイルスなどから体を守る抗体が免疫細胞などへのウイルスの感染を促進し、症状を悪化させてしまう「抗体依存性感染増強(ADE)」を起こす恐れもあります。
ウイルス感染から回復した患者の血液には通常、ウイルスに対する抗体が含まれており、この血液から赤血球や白血球を除いた血漿(けっしょう)や血清を別の患者に投与する治療法もあります。SARSやMERSの患者にも試みられた血清療法と呼ばれるこの治療法は、新型コロナウイルス感染でも中国などで試みられ、症状が改善したと報告されています。日本では武田薬品工業が最短9カ月で治療薬として完成させる方針です。