リチウムを電極に使う二次電池は今回、吉野氏と同時にノーベル化学賞を受賞した米ニューヨーク州立大学のマイケル・スタンリー・ウィッティンガム卓越教授が1970年代に開発しましたが、すぐに発火してしまい実用化されませんでした。その後、同じく今回の受賞者である米テキサス大学のジョン・グッドイナフ教授が電池の正極として、化合物のコバルト酸リチウムを開発しましたが、発火の危険性は解消されませんでした。これらの成果を生かし、吉野氏はコバルト酸リチウムを正極に、炭素素材を負極にそれぞれ使う方式を考案。正極と負極を隔ててショートするのを防ぐセパレーター(絶縁材)の開発なども含めてリチウムイオン電池の基本構造を確立し、85年に特許を出願しました。
リチウムイオン電池は91年、ソニーが世界で初めて商品化。その後、東芝や旧三洋電機なども相次ぎ製品化しました。ニッケル・カドミウム電池(ニッカド電池)などの二次電池に代わって、90年代半ばからポータブルCDプレーヤーやノートパソコンなどへの搭載が広がり、電子機器の小型化が進みました。特に携帯電話の軽量・小型化は世界の通信環境を一変させました。リチウムイオン電池は日本のエレクトロニクス産業を支える商品として、日本製が世界で高いシェアを占めましたが、2010年ごろから韓国や中国のメーカーが台頭し、市場での立場が逆転しました。
リチウムイオン電池は近年、ハイブリッド車や家庭用蓄電装置、国際宇宙ステーションなどでも使われ、需要はさらに拡大しています。特に、従来のニッケル水素電池と比べ数倍のエネルギーをためられるうえ、電圧が高く大きな出力(パワー)が得られるため、EVへの普及が進んでいます。調査会社の富士経済(東京・中央)は、19年は4兆7855億円の世界のリチウムイオン電池の市場規模が22年には7兆3914億円に拡大すると予想しています。