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開発にノーベル化学賞のリチウムイオン電池、電子機器の小型化進める

2019.11.18 掲載
2019年のノーベル化学賞の受賞者にスマートフォンや電気自動車(EV)などに搭載するリチウムイオン電池の開発に貢献した吉野彰・旭化成名誉フェローが選ばれました。日本のノーベル賞受賞は18年に生理学・医学賞を受けた本庶佑・京都大学特別教授に続き27人目(米国籍を含む)で、化学賞は10年の根岸英一・米パデュー大学特別教授、鈴木章・北海道大学名誉教授以来8人目です。今回は吉野氏の受賞で評価されたリチウムイオン電池の仕組みや利用状況などについて解説します。

2.吉野氏が電極に炭素素材を採用し基本構造を確立

2.吉野氏が電極に炭素素材を採用し基本構造を確立
 リチウムを電極に使う二次電池は今回、吉野氏と同時にノーベル化学賞を受賞した米ニューヨーク州立大学のマイケル・スタンリー・ウィッティンガム卓越教授が1970年代に開発しましたが、すぐに発火してしまい実用化されませんでした。その後、同じく今回の受賞者である米テキサス大学のジョン・グッドイナフ教授が電池の正極として、化合物のコバルト酸リチウムを開発しましたが、発火の危険性は解消されませんでした。これらの成果を生かし、吉野氏はコバルト酸リチウムを正極に、炭素素材を負極にそれぞれ使う方式を考案。正極と負極を隔ててショートするのを防ぐセパレーター(絶縁材)の開発なども含めてリチウムイオン電池の基本構造を確立し、85年に特許を出願しました。
 リチウムイオン電池は91年、ソニーが世界で初めて商品化。その後、東芝や旧三洋電機なども相次ぎ製品化しました。ニッケル・カドミウム電池(ニッカド電池)などの二次電池に代わって、90年代半ばからポータブルCDプレーヤーやノートパソコンなどへの搭載が広がり、電子機器の小型化が進みました。特に携帯電話の軽量・小型化は世界の通信環境を一変させました。リチウムイオン電池は日本のエレクトロニクス産業を支える商品として、日本製が世界で高いシェアを占めましたが、2010年ごろから韓国や中国のメーカーが台頭し、市場での立場が逆転しました。
 リチウムイオン電池は近年、ハイブリッド車や家庭用蓄電装置、国際宇宙ステーションなどでも使われ、需要はさらに拡大しています。特に、従来のニッケル水素電池と比べ数倍のエネルギーをためられるうえ、電圧が高く大きな出力(パワー)が得られるため、EVへの普及が進んでいます。調査会社の富士経済(東京・中央)は、19年は4兆7855億円の世界のリチウムイオン電池の市場規模が22年には7兆3914億円に拡大すると予想しています。
2019年11月18日掲載