高齢ドライバーの交通事故が深刻な問題と認識されたきっかけは2019年4月に東京・池袋で起きた悲惨な事故でした。当時87歳の男性が運転していた乗用車が暴走して横断歩道に突っ込み、3歳の女児とその母親が死亡したほか、男性を含め12人が重軽傷を負いました。警視庁の調べでは車の機能に異常などは確認されず、アクセルとブレーキの操作ミスが暴走を招いたとみられます。この事故から間もない同年6月には、福岡市で81歳の男性が運転する乗用車が暴走して次々に衝突事故を起こし、この男性と同乗の妻が死亡、7人がけがをするなど、高齢ドライバーの事故が相次ぎました。
警察庁が19年上半期(1~6月)に起きた交通死亡事故を分析したところ、75歳以上のドライバーによる事故149件の34%はハンドルやブレーキの操作ミスが原因でした。その比率は75歳未満の3倍で、加齢による認知機能や運転技術の衰えが影響しているとみられます。操作ミス以外では漫然運転などの不注意(19%)、左右の確認をしないなどの安全不確認(15%)が続きました。
政府が19年6月に閣議決定した2019年版「交通安全白書」によると、30年前の1988年に1万344人だった交通事故死者数は18年には3532人と約3分の1に減少しました。しかし、18年の死者数全体に占める65歳以上の高齢者の割合は55.7%で過去最高を記録しました。高齢者の比率上昇は、18年の70歳以上の運転免許保有者数が約1130万人と、30年間で約10倍に増えていることが背景にあるようです。