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海洋探査、地震解明や資源開発で脚光

2018.12.3 掲載
巨大地震の発生や海底資源開発をめぐり海洋探査が進んでいます。海洋研究開発機構が2018年10月、地球深部探査船「ちきゅう」を使い、巨大地震を繰り返し起こしてきた南海トラフの深部の探査を開始。地震の発生メカニズムの解明をめざします。日本近海の海底にはメタンハイドレートやレアアース(希土類)など多様なエネルギー・鉱物資源が眠っており、産官学による探査も進んでいます。今回は海洋探査の歴史を振り返るとともに、ちきゅうの探査などの新たな動きを紹介します。

2.南海トラフ深部を掘削し地震発生メカニズム解明めざす

2.南海トラフ深部を掘削し地震発生メカニズム解明めざす
 現在の海洋探査は海底の下にまで及んでいます。海洋研究開発機構は2005年、海底から7000メートル下まで掘削できる地球深部探査船「ちきゅう」を完成させました。地球の表面を覆う地殻の下のマントルに達する掘削能力があり、海底の下の地質資料を回収・分析する多国間科学研究プロジェクト「国際深海科学掘削計画(IODP)」を推進する主力船として活躍しています。
 ちきゅうは運用開始からわずか10年余りの間に、数々の大きな成果をあげました。その一つが巨大地震発生の仕組み解明への貢献です。地球の表面は複数のプレート(岩板)で覆われています。日本の太平洋側の海底では、日本列島のある陸側のプレートの下に、海側のプレートが少しずつ沈み込んでおり、ひずみが蓄積します。ひずみの蓄積が進み、ひずみに耐えきれなくなったプレート境界部が大きくすべると巨大地震が発生します。この境界部の一つが静岡県の太平洋側から九州地方にかけて海底に細長く伸びる溝状の地形の南海トラフで、100~150年の周期でマグニチュード8クラスの巨大地震を繰り返し発生する震源域となっています。
 海洋研究開発機構などは11年10月、ちきゅうが南海トラフの海底から掘り出した岩石資料を分析した結果、1944年に起きた東南海地震で断層が動いた痕跡を発見したことを公表しました。このほか、宮城県沖の海底の断層もちきゅうで掘削調査し、東日本大震災で津波や揺れが巨大になった原因を解明、13年12月に米科学誌に論文を掲載しました。
 現在、南海トラフの探査は新たな段階に入っています。海洋研究開発機構は18年10月、ちきゅうを使って南海トラフの深部の探査を始めました。海底下5200メートルまで掘り進み、ひずみが蓄積するプレート境界部の巨大断層から岩石資料の採取などをします。巨大地震の発生メカニズムの核心に迫る世界初の試みです。採取した岩石の成分などを調べることにより、プレート境界部のひずみの蓄積状況を推定できれば、地震発生の切迫度がより正確に分かる可能性があります。
 将来は海底に掘削した穴に観測装置を置き、プレート境界の状態をリアルタイムで監視することで、地震発生を即時に把握し防災に役立てることも検討されています。
2018年12月3日掲載