ビジュアル・ニュース解説

臨床応用広がるiPS細胞――再生医療の現状を知る

2018.11.19 掲載
再生医療の切り札として期待される万能細胞「iPS細胞」。京都大学の山中伸弥教授らが作製に成功して10年以上たち、国内で実用化に向けた臨床研究が本格化しています。京大が2018年8月にiPS細胞を使ってパーキンソン病の治療を目指す臨床試験を始めたのに続き、大阪大学が心臓病の治療に挑みます。今回はiPS細胞開発の経緯と特徴、再生医療の研究動向について解説します。

3.目や心臓、脳などの患者治療へ臨床研究進む(1)

3.目や心臓、脳などの患者治療へ臨床研究進む(1)
 様々な病気を対象にしてiPS細胞を使った臨床研究が進んでいます。
 理化学研究所は14年、世界で初めてiPS細胞を使う臨床研究を実施しました。iPS細胞から網膜の細胞を作り、目の難病である「加齢黄斑変性」の患者に移植しました。これまでに6人に移植されています。
 厚生労働省は18年5月、大阪大のiPS細胞を使った心臓病の臨床研究計画を了承しました。対象は心臓の筋肉(心筋)に十分な血液が届きにくくなる「虚血性心筋症」で重症心不全になった患者です。iPS細胞から作製したシート状の心筋細胞を患者の心臓に貼り付け、機能の回復を促します。効果が認められれば、心臓移植のドナー不足や人工心臓の合併症リスクなどの課題解決につながる可能性があります。大阪大は18年度中に1人目の治療を始め、3年程度かけて3人を治療する計画です。
 京大は18年8月、徐々に体が動かなくなるパーキンソン病の患者に対し、iPS細胞を使った治療の臨床試験(治験)を始めました。病気のメカニズム解明や新たな治療法の開発などを目的に人を対象に行う「臨床研究」のうち、新しい薬や医療機器の候補などを使う治療法の有効性や安全性を検証するものを「臨床試験」といいます。「治験」はこのうち企業が製品として製造・販売することを国に承認してもらうためのデータを集めることです。京大の治験は運動の指令を伝えるドーパミンという物質を出す神経細胞をiPS細胞から作り、患者の脳に移植するもので、2年をかけて7人の患者に実施します。
 このほか、慶応義塾大学が脊髄損傷の患者への移植の実施を学内で審査中で、角膜や血小板の病気などを治療する臨床研究の計画もあります。
2018年11月19日掲載