ビジュアル・ニュース解説

臨床応用広がるiPS細胞――再生医療の現状を知る

2018.11.19 掲載
再生医療の切り札として期待される万能細胞「iPS細胞」。京都大学の山中伸弥教授らが作製に成功して10年以上たち、国内で実用化に向けた臨床研究が本格化しています。京大が2018年8月にiPS細胞を使ってパーキンソン病の治療を目指す臨床試験を始めたのに続き、大阪大学が心臓病の治療に挑みます。今回はiPS細胞開発の経緯と特徴、再生医療の研究動向について解説します。

2.体のあらゆる細胞に変化できる万能細胞(2)

2.体のあらゆる細胞に変化できる万能細胞(2)
 1981年に英国でマウスの細胞から万能細胞のひとつの「胚性幹細胞(ES細胞)」が作られ、98年には米国の研究グループがヒトで作製に初めて成功しました。2000年代に入ると世界で研究が進められましたが、その一方でES細胞は胎児になる前の受精卵を壊して作製するため、倫理面から批判の声が上がりました。患者自身の細胞からES細胞を作製するのは技術的に難しく、他人の細胞から作ったES細胞を使った組織や細胞を移植すると拒絶反応が起こる問題もあります。
 日本では01年の国の指針でES細胞の使用を基礎研究に限定したため、ES細胞に代わる万能細胞の研究が進みました。その結果生まれたのがiPS細胞です。京大の山中教授らの研究グループが07年に世界で初めてヒトの皮膚細胞からiPS細胞の作製に成功。患者自身の細胞から作製できるため、培養した組織や細胞を移植しても拒絶反応が起こりにくく、再生医療の切り札になると期待されています。山中教授はiPS細胞の研究で12年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
2018年11月19日掲載