ビジュアル・ニュース解説

サマータイムの利点と難点を知る

2018.9.17 掲載
夏に時計の針を進めることで、まだ明るい夕刻を余暇などにあてるサマータイム(夏時間)制度。2020年の東京五輪・パラリンピックの暑さ対策として導入論が出ています。欧米など60を超える国が実施していますが、欧州では健康への悪影響から廃止を求める声が強まっています。今回はサマータイム制度の概要や国内外の導入を巡る経緯、期待される効果と課題について解説します。

3.コンピューターシステムの対応や健康への悪影響に懸念

3.コンピューターシステムの対応や健康への悪影響に懸念
 ここに来てサマータイム制度の導入論議が再燃しています。18年の夏は記録的な猛暑が続き、熱中症などの健康被害が相次ぎました。真夏に開かれる20年の東京五輪・パラリンピックでも同様の猛暑になれば、マラソンなどの選手への影響が懸念されるため、大会組織委員会が暑さ対策の1つとして政府に提案。安倍首相が検討を指示したことから、その是非を巡る議論が活発になっています。
 サマータイム導入の利点としては省エネと経済活動の活性化が挙げられます。活動する時間帯が早まると、気温が比較的低い朝の冷房使用や夕方の照明点灯が抑えられ、電力消費を削減できます。夕方のまだ明るい時間に仕事が終われば、その後の時間をレジャーやスポーツなどに活用できます。
 夏に始業・終業時間を通常より早め、残業を削減する独自のサマータイム制度を取り入れている企業もありますが、取引先との兼ね合いなどから退社がずれ込み、結果的に労働時間が増えてしまう例が見られました。サマータイムが国内全体に導入されれば、こうした問題はなくなります。
 東京五輪・パラリンピックの暑さ対策としては、競技時間が実質前倒しになってマラソンなど選手の負担が大きい競技を暑くなる前に実施できます。
 ただ、導入には課題が少なくありません。まず懸念されるのはコンピューターシステムの対応です。導入は日付や時刻に関係するあらゆるシステムに影響を与えます。航空機の運航や鉄道の運行の管理システム、交通信号機などに障害が起きれば人命にかかわる問題につながります。銀行の決済システムにトラブルが起きれば経済が大混乱するかもしれません。
 早起きや体がサマータイムに慣れた頃に元に戻ることにより、体調を崩すことを心配する声もあります。この問題を長年研究してきた日本睡眠学会は時間をわずか1時間でも早めると生体リズムの変調をもたらし、眠りの質を低下させるなどの懸念があることや、欧米に比べ夜型化・短時間睡眠が定着している日本は悪影響を受けやすいことなどを挙げ、睡眠不足による健康面の不利益が大きいとしています。
 肝心の省エネ効果も限定的だという指摘があります。退社時刻が早まってオフィスでの冷房利用が減っても、その代わりに家庭での利用が増えれば、電力消費の総量は大きく減りません。省エネ型の発光ダイオード(LED)を使った照明器具の普及で、照明の使用が減っても大幅な省エネは期待しにくくなっています。
2018年9月17日掲載