トランプ米大統領は米国の巨額の貿易赤字を問題視しており、TPP離脱のほかにも自国優先の通商政策を次々に打ち出し各ています。
その一つが北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉です。NAFTAは1994年に発効した米国、カナダ、メキシコの3カ国が参加するFTAです。トランプ大統領はNAFTAによってメキシコとカナダからの自動車などの輸入が増えたことで、米国内の雇用が奪われていると主張し、両国にNAFTAの再交渉を要求しています。自動車への関税をゼロにするための条件を厳しくすることで、自動車や部材の生産を賃金水準の低いメキシコから自国に誘導する考えです。要求が通れば、NAFTAを前提にメキシコに米国市場向けの生産拠点を置く各国自動車メーカーの戦略への影響は避けられません。
中国との貿易摩擦も激しくなっています。米国は2018年3月、貿易赤字の約半分を占める中国を念頭に鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を発動し、それぞれ25%、10%の追加関税を課しました。このほか、米国は産業機械など約1300品目にのぼる中国製品に25%の関税をかけることを表明。中国はこれに対し、豚肉やワインなど128品目に最大25%の関税を上乗せする対抗措置を打ち出しました。大国同士の貿易摩擦が拡大すれば、世界経済に悪影響を及ぼす恐れがあります。
米国が発動した輸入制限はWTOのルールに反しているとして、中国以外の国も反発しています。インドはWTOへの提訴も辞さない構えで、ロシアはWTOの規則に基づいて対抗措置を検討しています。ただ、トランプ大統領は自国に不公平としてWTOを批判しており、その判断に従わない可能性を示唆しています。経済大国である米国がWTOに対立するような外交を続ければ、自由貿易の推進に強い逆風となります。
米国の鉄鋼とアルミニウムの輸入制限の対象には日本も含まれており、対岸の火事ではありません。米国は日本と2国間でのFTA締結を望んでいるとみられ、今後、TPPでの合意より厳しい条件を迫る可能性があります。
日本は米国に対してTPPへの復帰を呼びかける一方、TPP11の交渉を主導し、署名までこぎつけました。17年12月には欧州連合(EU)とのEPA交渉が関税ルールなど主要部分で妥結しました。保護主義への傾斜を強める米国に対し、今後TPP11や日欧EPAなどの成果を生かしながら、各国と連携して自由貿易を主導することが求められます。