ビジュアル・ニュース解説

宅配便に転機、その歩みと課題を知る

2017.5.15 掲載
小さめの荷物を自宅や企業のオフィスなどに届ける宅配便は、いまや生活を支えるインフラとして欠かせません。しかし、最近はインターネット通販の拡大で取扱数が想定以上に急増したため、必要な配達員数の確保が追いつかず、人手不足が深刻です。コストがかさむ再配達も増えており、これまでの利便性第一のサービスは見直しを迫られています。今回は宅配便サービスの概要やこれまでの歩み、直面する課題と事業者のその解消への取り組みについて解説します。

4.人件費の高騰と単価の低迷で利益なき繁忙に(2)

4.人件費の高騰と単価の低迷で利益なき繁忙に(2)
 共働きや単身世帯の増加で昼間に不在の家が多く、再配達が増えていることも事業者の悩みの種です。国土交通省は再配達される荷物の数は全体の2割、そのための走行距離は25%と試算しています。再配達が増えればそれだけ配達員の負担が増し、再配達をしても追加運賃を取るわけではないのでコストもかさみます。
 この状況を打開するため、ヤマトは宅配便の料金の基準となる基本運賃を17年10月に5~20%引き上げます。消費者が対象となる値上げは、消費増税時を除くと27年ぶりです。ネット通販会社など割引を適用する大口顧客には、さらに大幅な値上げを求めます。運賃の引き上げで従業員の待遇を改善するなどして、人手を確保するのが狙いです。
 当日配送サービス受託からの撤退など、ネット通販会社との取引内容も再検討しています。宅配便事業の運営が厳しいのは他社も同じで、佐川急便も大口顧客向けの運賃を引き上げる方針です。
 日本全体の物販に占めるネット通販の割合はまだ5%程度で、今後さらに増えるのは確実です。宅配便サービスを維持するため、配送現場の労働環境の改善だけでなく、受け取りで宅配会社に協力すると値引きやポイント付与、宅配ボックスを設置する家への配送料の割引など、様々な施策が打ち出されています。複数の事業者による共同配送も一部で始まっています。世界に類を見ない緻密な宅配便サービスを維持するために知恵と工夫が求められています。
2017年5月15日掲載