しかし、近年は重国籍を認める国が広がっています。欧州ではEU加盟国間の人の移動の自由化などを背景に、重国籍を認める国が増えています。米国では最高裁判所が1952年に「重国籍は法律上認められている地位で、2カ国で国民の権利と責任を負う」との判決を下し、他の国民として権利を享受し、義務を遂行しても、米国の市民権は失われないとされます。アジアでも2000年代以降、重国籍を部分的に認める国が増えています。フィリピンでは03年に在外フィリピン人の重国籍を認める法律が成立。韓国は10年に国籍法を改正し、限定的に重国籍を認めています。
世界が重国籍を認める方向へ動くなか、日本が国籍選択の制度を維持し続けるのは現実的ではなくなりつつあります。政府は重国籍者に対して国籍選択を呼びかけているものの、国籍選択を督促した例はこれまでなく、重国籍は事実上放任されています。グローバル化を背景に、国境を越えた人の移動や国際結婚が増えるなか、重国籍を制度として容認すべきだとの声も出ています。
日本では人口減少による働き手の減少を背景に、外国人労働者の受け入れ拡大の議論が高まっています。国内で働く外国人の数は増えており、厚生労働省によると16年10月末時点の外国人労働者数は前年同期比19%増の108万3769人と、初めて100万人の大台に乗せました。留学生や技能実習生の名目で受け入れている外国人が事実上の労働力となっているためです。政府は外国人経営者や研究者などを対象に永住権を取得するための在留期間を短縮する方針を打ち出すなど、外国人労働者の受け入れ政策の見直しを進めています。
国内の外国人労働者は増えているとはいえ、雇用される人の2%弱にすぎません。政府も帰化を伴う移民の受け入れには慎重な姿勢です。ただ、外国人労働者が今後さらに増加し、永住や帰化を求める声が高まれば、国籍制度も見直しを迫られそうです。