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英国、EUを離脱へ~背景と今後の影響は?

2016.7.18 掲載
2016年6月、英国で行われた欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票で、支持が全体の過半数を占めて離脱が決まりました。EU加盟国の離脱は初めてで、統合と拡大を進めてきた欧州は大きな試練に直面しています。英国とEUの今後の関係は不透明で、国際金融や世界経済、企業の欧州での事業展開などに悪影響が及ぶ恐れがあります。今回は欧州統合のこれまでの歩みや、国民投票が実施された経緯、英のEU離脱による日本への影響などについて解説します。

5.世界経済の行方にも暗雲(2)

5.世界経済の行方にも暗雲(2)
 英国にとってEUは貿易総額の約5割を占める最大の貿易相手で、EUからの離脱によって巨大な市場への自由なアクセスや非関税措置が認められなくなれば、経済への大きな打撃は避けられません。英国は今後、EUと貿易や投資に関する交渉を進めるとみられます。具体的にはスイスのようにEU加盟国と2国間条約を結び、必要な分野に限定してEU市場にアクセスすることが考えられます。また、EU加盟28カ国にノルウェー、リヒテンシュタイン、アイスランドを含めた31カ国が参加する「欧州経済地域(EEA)」に英国が残留できれば、EU加盟国と有利な条件で貿易や投資を続けられますが、EUがこれを認めるかは不透明です。
 英のEU離脱は世界経済にも影を落としています。国民投票の結果を受けた6月24日の世界の株式市場は、世界景気の先行き不透明感が強まってそろって急落。この日だけで世界の株式時価総額は全体の約5%に相当する約3.3兆ドル(330兆円強)が消失しました。
 これに加えてポンドやユーロの相場が下落し、相対的に安全と考えられている円を買う動きが加速しています。円高で日本の輸出産業の業績が悪化すれば、企業収益や賃金の低下につながるおそれがあります。また、欧州各国への輸出拠点とするため英国に進出した日本企業は少なくありません。これまでEU内へは関税なしで輸出できましたが、英国が離脱すればこのメリットがなくなる可能性があります。
 実際に英国がEUを離脱するには欧州理事会に離脱の意思を通告しなければならず、手続きが全て完了するには数年かかりそうです。国民投票の結果を受け、EU残留を訴えてきたキャメロン首相は辞任を表明し、いつ離脱を通告するかは次期政権に委ねるとしています。
 EU離脱が決まって以降、英国内では国民投票のやり直しやEUとの離脱交渉の先送りを求める声が広がっており、「Regret=後悔」にかけて「Regrexit」(リグレジット)や「Bregret」(ブリグレット)という造語も登場しています。今後、英国の新政権とEUとの交渉が難航すれば、世界経済に大きな悪影響を及ぼす可能性もあります。
2016年7月18日掲載