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TPPの影響について知る

2015.11.16 掲載
環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が2015年10月、大筋合意に達しました。世界最大の自由貿易圏が誕生します。自動車などの工業分野の輸出拡大が期待される半面、安い海外産農産物の輸入拡大によって国内農家が厳しい競争にさらされる恐れもあります。今回はTPPの概要や産業界・消費者への影響、発効までの今後の見通しについて解説します。

2.輸出競争力が向上し消費に恩恵

2.輸出競争力が向上し消費に恩恵
 日本にとってTPP発効の最大のメリットは輸出競争力の向上で、特に大きな効果があるとみられるのが自動車などの工業品分野です。最終的に工業品の99.9%の品目で関税が撤廃されます。TPP発効時点で、米国向けの輸出は関税がかからない工業品の割合がそれまでの39%から67%に上がります。
 TPPは企業の国際的な活動に関するルールも広範囲にわたって定めています。投資や紛争解決、金融などのルールを明確にするとともに、著作権など知的財産権の保護や国有企業への優遇制限などを盛り込んでいます。TPPに参加した東南アジア諸国は経済成長が著しく、生産拠点や消費市場として注目を集めています。TPP発効を機に、これらの国々で規制緩和や知的財産権の保護などが進めば、日本企業の現地での事業展開がしやすくなります。
 消費にも広く恩恵がありそうです。関税が撤廃・縮小されれば、輸入する商品価格をその分だけ引き下げる余地ができ、海外の製品を買いやすくなります。
 海外での携帯電話の通話料金も安くなりそうです。旅行先で自分の携帯電話をそのまま使う「国際ローミング」の料金は国によって差があります。例えばオーストラリアを訪れた際、日本から持っていった携帯電話で通話すると1日当たり1280~1980円かかります。逆にオーストラリアから訪日して同様に通話する料金は同900円ほどです。TPPは国際ローミングについて、合理的で透明性の高い料金設定への努力義務を盛り込んでいるため、海外との利用料金の格差が小さくなる可能性があります。
 安い海外産品の流入は、国内の産業が国際競争にさらされることを意味します。とりわけコメや畜産物などを中心に、国内農家への大きな打撃が懸念されています。TPPで日本は米国とオーストラリアに対し、関税のかからないコメ輸入枠を発効当初、合わせて年5万6000トン設定。4年目以降、この枠を7万8400トンまで段階的に拡大します。
 政府はこれによるコメ農家への悪影響を最小限に抑えるため、米豪から輸入した分と同量のコメを農家から買い上げて備蓄米にする方針です。市場に流通する主食用米が増えないようにして価格の下落を抑えるのが狙いです。このほか、国内農業の競争力向上を目指し農地の集約を進めて規模の拡大を図るほか、安い輸入品と差別化するため新しい品種への切り替え支援などを検討しています。
 肉類の関税も引き下げられますが、いずれも10年程度をかけて段階的に進めるため、農家が経営強化に取り組む時間は残されています。
2015年11月16日掲載