ビジュアル・ニュース解説

映画業界と映画館の最新動向を知る

2015.7.20 掲載
2014年の国内の映画興行収入が4年ぶりに2000億円台を回復しました。その一方で、複合型映画館(シネマコンプレックス)の拡大でスクリーン数が増えたほか、大画面テレビやスマートフォンの普及により映画鑑賞の手段の選択肢が広がり、映画館を取り巻く環境は厳しくなっています。映画館各社は競争力を高めようと、最新の上映システム導入やサービス充実などに努めています。今回は国内の映画産業の概要と歴史、映画館の最新動向について解説します。

5.映画館各社、体験型劇場システムの導入で付加価値向上を急ぐ

5.映画館各社、体験型劇場システムの導入で付加価値向上を急ぐ
 最近では3D映像に様々な特殊効果を組み合わせる体験型劇場システムの導入が始まっています。映画の場面に合わせて座席が前後や上下、左右に動くほか、劇場内に風や香り、水しぶき、閃光(せんこう)、煙などを出す演出により、映画の世界を体感できるのが特徴です。
 体験型システムの一つが韓国企業が開発した「4DX」です。2015年6月末現在、34カ国182館で導入され、2013年にシネコンを運営するコロナワールドが名古屋市内の映画館に初めて導入して以降、国内にも徐々に広がっています。15年4月には最大手のTOHOシネマズが、米メディアメーションが開発した「MX4D」を国内で初めて埼玉県富士見市の映画館に採用、6月には東京の新宿と六本木の館にも導入しました。
 このほか、スクリーンが大きく広がり、高画質と迫力ある音響が特徴の「IMAXシステム」や、立体的な音響の「ドルビーアトモス」など、最新鋭の上映システムを採用した映画館が次々に登場しています。
 施設だけでなく、飲食などサービスの充実で差別化を図る例もあります。東急レクリエーションが東京・二子玉川に15年4月開業した「109シネマズ二子玉川」は、1人6000円の最上級プレミアムシートを設けました。フットレストがついた革張りの電動リクライニングシートでゆったりと鑑賞でき、専用ラウンジでワインや軽食が味わえます。ユナイテッド・シネマとサッポロ不動産開発が15年3月に東京・恵比寿で営業を再開した映画館では、高級フランス料理店「ジョエル・ロブション」が監修したランチボックスやカクテルなどを提供するほか、トイレに化粧台を備えるなど女性を意識したサービスに力を入れています。
 国内の映画興行収入は東日本大震災が起きた2011年から2000億円を割り込んでいましたが、14年は米ウォルト・ディズニーの「アナと雪の女王」のヒットなどにより4年ぶりに2000億円台を回復しました。15年も話題作の公開が目白押しで、映画の興行収入は好調が続くとみられます。
 ただ、シネコンの増加で全国のスクリーン数は約3400と10年前より2割増えており、映画館の間の来場者獲得競争は激しくなっています。今後も安定した収益を維持するためには、さらに施設の改善やサービスの向上を進め、映画館ならではの魅力の提供が求められます。
2015年7月20日掲載