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アジアインフラ投資銀行って何? 国際開発金融機関の基礎知識

2015.6.1 掲載
中国が主導する国際開発金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」に注目が集まっています。英国やドイツ、フランスなど欧州の主要国を含む57カ国が参加して2015年中に設立の予定で、これまでアジア開発銀行(ADB)を通じてアジアの経済開発を主導してきた日本と米国は警戒感を強めています。今回はそもそも国際開発金融機関とは何か、経済開発を目的とした国際金融体制の歴史、AIIB設立の狙いなどについて解説します。

3.中国主導のアジア投資銀行が年内に発足、日米は参加に慎重

3.中国主導のアジア投資銀行が年内に発足、日米は参加に慎重
 現在、アジアを対象とする新たな国際開発金融機関の設立準備が進んでおり、注目を集めています。中国が設立を提唱しているAIIBです。
 当初、参加を表明したのは支援を受ける側のアジアの国々が大半でしたが、2015年3月に英国が参加を表明したのをきっかけに、ドイツやフランスなど欧州の先進国の参加が相次ぎ、参加国は57カ国に膨らみました。2015年中に設立予定で、1000億ドル(約12兆円)を予定する資本金の約3割を中国が出資する見通しで、初代総裁も同国の元財政官僚が有力です。
 既にアジアを対象とするADBがあるにもかかわらず、中国がAIIBを設立する理由は2つあります。その一つはADBの融資のスピードが遅いことです。ADBは融資する際に、返済できるかどうかや、事業が環境に悪影響を与えないかどうかなどを厳しく審査するため、融資までに1年半以上かかることが少なくありません。ADBよりも迅速に資金を貸し出すことで、旺盛なアジアのインフラ整備需要に機動的に応えることを狙います。
 もう一つは先進国主導のこれまでの国際金融体制への不満です。世界銀行やIMFなどは資金を多く出している先進国が強い発言権を持っているため、新興国の意見が運営に反映されにくいとの批判がありました。特に中国は世界第2位の経済大国になったにもかかわらず、十分な発言権が与えられていないことに強い不満があるとみられます。
 AIIBへの参加が相次いだ欧州は地理的に距離があるため中国の勢力拡大への警戒心が弱いうえ、AIIBへの関与がアジアでのビジネス拡大の好機になると捉えています。しかし、ADBを主導してきた日本や米国は今のところ、AIIBへの参加に慎重です。中国の影響力が強く、組織運営や意思決定の過程が不透明なことがその主な理由です。ただ、日本の産業界には「AIIBに参加しないと、アジアでのビジネスチャンスを逃すのでは」と心配する声もあります。AIIB側は信用力の向上につながり、国際開発金融のノウハウも得られることから、日本の参加を歓迎する姿勢を示しています。一方、AIIBの設立に備え、ADBは融資の審査期間の短縮や融資枠の拡大などの改革を掲げるとともに、AIIBとの協調融資を検討する方針です。
 アジアのインフラ整備には年間8000億ドル、約96兆円が必要とされ、ADBだけでこの資金需要すべてに応えることは事実上不可能です。ADBとAIIBが政治的な思惑や対立を乗り越え、補完関係を築くことで、アジアの一層の発展に貢献できるかが注目されます。
2015年6月1日掲載