ビジュアル・ニュース解説

マグロ完全養殖の現状を知る

2015.1.19 掲載
人工ふ化させたマグロの卵を成魚にまで育てて産卵させる完全養殖。乱獲による資源量の減少でクロマグロの漁獲規制が強まるなか、天然資源への影響が少なく安定供給につながるとして期待され、水産各社などが事業化を急いでいます。今回は水産資源としてのマグロに関する基礎知識や漁獲規制の現状、クロマグロの完全養殖事業の動向などについて解説します。

4.人工ふ化させた卵から成魚にまで育てる完全養殖に注目

4.人工ふ化させた卵から成魚にまで育てる完全養殖に注目
 マグロ資源の先行きに対する懸念が広がるなか、天然資源に依存しない完全養殖が注目を集めています。
 02年に近畿大学が世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功しました。同大がクロマグロの研究を始めたのは40年以上前にさかのぼります。1970年に水産庁が複数の研究機関によるクロマグロ養殖の研究プロジェクトを開始。近畿大もこれに参加しましたが、養殖に必要な天然幼魚をいけすに移した後の生存率が低く、3カ年のプロジェクト終了後には撤退する機関が相次ぎ、最終的に続行したのは近畿大だけでした。
 その後、近畿大は釣り針を工夫するなどして天然幼魚を傷つけずに釣りあげていけすに移す方法を開発したほか、水槽内の水流コントロールや大量の給餌で衝突死や共食いを防止するなど、地道に成果を積み上げて完全養殖の実現にこぎ着けました。現在では年5万〜10万尾の幼魚を養殖業者に出荷し、育てたマグロを提供する飲食店も展開しています。
 マグロの完全養殖は飼育コストが高いなど、まだ課題が少なくありませんが、近畿大の成功を受けて国内の水産各社も事業化に向けて動き出しています。極洋と日本配合飼料は14年に、人工ふ化のクロマグロ同士から生まれた稚魚を陸上のいけすから海上のいけすに移すことに成功。17年から完全養殖クロマグロの出荷を年間200トン規模で始める計画です。この規模は現時点で国内最大級です。マルハニチロは完全養殖のクロマグロを6000匹規模で育てており、16年から本格的に出荷する計画です。計画通りに進めば、民間企業が卵から成魚まで育てて販売する初めての例となります。日本水産はふ化して数日たった稚魚向けの配合飼料を開発し、初期の飼育コストの半減をめざしています。このほか、豊田通商が近畿大と提携してクロマグロ養殖に乗り出すなど、マグロの完全養殖を巡る競争は今後、本格化しそうです。
 販売でクロマグロの完全養殖を後押しする小売りも出てきました。イオンはマルハニチロの本格出荷に先行して、同社の完全養殖クロマグロを15年6月から全国の最大2000店のスーパーで販売する予定です。
 完全養殖マグロを量産できれば、将来は海外への輸出も視野に入ってくるでしょう。日本が生み出した完全養殖技術で、安くておいしいマグロを世界中の人々が味わえる日が来るのはそう遠いことではないかもしれません。
2015年1月19日掲載