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寝台列車の歴史と「クルーズトレイン」について知る

2014.7.7 掲載
「ブルートレイン」として親しまれたJRの夜行寝台特急列車が相次ぎ廃止される一方で、車中で一流ホテルのようなサービスを楽しみながら観光地をめぐる豪華寝台列車「クルーズトレイン」が注目を集めています。2013年秋に運行を始めたJR九州の豪華寝台列車「ななつ星in九州」に続き、JR東日本とJR西日本も豪華列車の運行計画を発表しており、これからの寝台列車の主流となりそうです。今回は寝台列車の歴史と、鉄道各社のクルーズトレイン導入の背景や動向について解説します。

4. 「ななつ星in九州」人気でクルーズトレインに脚光(1)

4. 「ななつ星in九州」人気でクルーズトレインに脚光(1)
 最近は、車中での「非日常体験」と沿線の観光地巡りを組み合わせた「クルーズトレイン」と呼ばれる超豪華寝台列車が登場して話題を集めています。2013年10月にJR九州が運行を始めた「ななつ星in九州」です。
 JR博多駅を発着する1泊2日か3泊4日の日程で、大分・由布院、熊本・阿蘇などの九州の観光地を巡ります。新幹線並みの約30億円の費用をかけて開発された車両の床や壁には木材をふんだんに使用。客室はすべてスイートルームで、人間国宝が制作した有田焼の洗面鉢を備え付けたり、ノーベル賞の晩さん会で使われるのと同じナイフやフォークを採用したりするなど、細部に至るまで贅(ぜい)を尽くしています。特別な訓練を受けた客室乗務員が乗客3人に1人の割合で接客に当たり、高級ホテルと比べても遜色のない上質できめ細やかなサービスを目指しています。料金は1人あたり最高125万円 と、これまでの豪華寝台列車とはケタ違いの価格設定です。
 ローカル路線を多く抱えるJR九州の鉄道事業は会社の発足以来、営業赤字が続いていました。同社は収益改善のために観光客を九州に呼び込む戦略を展開。1989年に博多と由布院を結ぶ「ゆふいんの森」の運行を開始して以降、展望スペースやビュッフェ、バーカウンターなどを備えた、乗ること自体を楽しむ観光列車を次々と投入してきました。ななつ星はその最上級版というわけです。
 ななつ星は料金の高さにもかかわらず、2013年10月~14年6月出発分の予約には申し込みが殺到し、抽選倍率は7.3~9.6倍に達しました。14年8~11月出発分については平均37倍になっています。
 利用客の中心はシニア層です。鉄道の利用者数は人口減少で頭打ちになっており、鉄道会社が生き残るためにはシニア層の取り込みが欠かせません。ななつ星は「料金は高くてもいいから上質な旅行をしたい」というシニア層のニーズをつかみました。さらに外国人スタッフを配置するなど、海外からの誘客にも力を入れています。
 経済成長期には効率よく消費することが求められ、「時間」は節約の対象でした。しかし、大幅な経済成長が期待できない現在は、自分なりの価値や満足が得られる「時間」や「体験」が重視されています。ななつ星はこうした「コト消費」の流れも追い風となりヒットにつながりました。
2014年7月7日掲載