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日本の農業ビジネスの最新事情を知る

2014.1.20 掲載
働き手の高齢化や後継者不足、耕作放棄地の拡大といった問題に直面する日本の農業。規制緩和をきっかけに農地経営に乗り出す企業が増え、農業の新たな担い手として存在感が高まっています。安倍政権は環太平洋経済連携協定(TPP)参加を踏まえ、農地の集約やコメの生産調整(減反)廃止などの農業強化策を推進。企業の農業参入を促すとともに、意欲的な農家を後押しすることで国内農業の競争力向上を図っています。今回は日本の農業の現状や規制緩和の経緯、企業の参入動向、安倍政権の農業改革などについて解説します。

5. 安倍政権の農業改革に課題も(2)

5. 安倍政権の農業改革に課題も(2)
 また安倍政権は13年11月、コメの生産調整(減反)制度を5年後の18年度になくす方針を決定しました。減反制度はコメの作りすぎによる価格の下落を防ぐために国が生産量を制限するもので、1970年に導入されました。現在は、政府が定めた生産量を守った農家に田んぼ10アール(1アールは100平方メートル)あたり年1万5000円の補助金を払い、コメの市場価格が基準価格を下回った場合にも補助金を出しています。これらの補助金を段階的に削減・廃止する予定です。
 減反制度は農家の雇用や収入の安定に寄与してきた半面、生産量を増やす栽培技術開発や品種改良が進まず、日本の農業の競争力低下の要因とかねてから指摘されていました。減反制度をなくせば、コメ作りをやめる零細農家が増え、農業生産法人や大規模農家への農地集約が加速するかもしれません。
 ただし、安倍政権の一連の農業改革には課題もあります。農地集約を促す新制度を導入しても、宅地などへの転用を期待する農家が農地を手放さず、制度が期待どおりに機能しない可能性があります。
 減反制度の廃止でも、主食用のコメ生産に対する補助金は段階的になくなりますが、飼料用のコメなどへの転作への補助金は逆に増えるため、政府が意図する農地集約が進まないおそれがあります。減反廃止でコメの価格が下がれば、大規模農家の経営が不安定になるリスクもあります。
 また、農業の規制緩和についても踏み込み不足との指摘があります。現状では企業は農地を購入して直接保有することはできず、期間限定の農地リース方式しか認められていないため、長期的な視点に立った経営が困難です。企業側は保有の自由化を求めていますが、13年6月に決定した成長戦略では検討課題にとどまっています。
 今後、農業改革の諸政策にどのようにして実効性を持たせるのか。民間の知恵と力をどこまで取り込めるのか。安倍政権の農業再生に対する本気度が試されそうです。
2014年1月20日掲載