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「ヒッグス粒子」理論にノーベル物理学賞~素粒子研究の基礎を知る

2013.12.2 掲載
万物の質量(重さ)の起源とされ、「神の粒子」とも呼ばれる素粒子「ヒッグス粒子」。2012年7月にその存在が実験で確認され、13年のノーベル物理学賞はヒッグス粒子の存在を提唱した英国とベルギーの研究者2人に授与されました。物理学の基礎理論に関わるヒッグス粒子の発見により、宇宙の謎を解き明かす研究が加速しそうです。今回は素粒子の基礎知識やヒッグス粒子の役割、素粒子研究への日本の貢献、研究の今後の焦点などについて解説します。

3. 物に質量を与えるヒッグス粒子の発見

3. 物に質量を与えるヒッグス粒子の発見
 標準理論が成り立つにはすべての素粒子の質量(重さ)がゼロでなくてはなりませんが、クォークやレプトンは質量を持つため、その質量は「外から与えられる」と仮定する必要があります。そこで想定されたのが、素粒子に質量を与えるヒッグス粒子でした。
 1964年に素粒子が質量を持つ仕組みを解明し、その起源となるヒッグス粒子の存在を提唱する論文が、複数の研究グループにより同じ時期に発表されました。その一つが、ベルギーのブリュッセル自由大学のフランソワ・アングレール名誉教授らによるもの、もう一つが英エディンバラ大学のピーター・ヒッグス名誉教授によるものです。アングレール氏らが素粒子に質量を与える仕組みを提唱し、ヒッグス氏らはその主役となるヒッグス粒子の存在を予言しました。
 ヒッグス粒子が注目されるのは、宇宙誕生の解明に欠かせないからです。標準理論によると、宇宙誕生の起点となる大爆発「ビッグバン」の直後に素粒子が生まれますが、この時点では素粒子の質量はゼロで、すべての素粒子は光と同じ速さで飛び回っていました。その直後にヒッグス粒子が発生して宇宙空間を満たし、他の素粒子にまとわりついて動きにブレーキをかけました。クォークやレプトンはヒッグス粒子から受けた抵抗によって質量を持ったと考えられています。
 素粒子が光速で飛び回っている間は、ぶつかってもくっつくことはありません。質量が生まれたことで素粒子が集まりやすくなった結果、原子核ができ、水素などの原子が宇宙空間に生まれました。やがて水素などの物質のガスが集まって星が誕生し、それらが集まって銀河が形成されます。その過程で水や大気が存在する惑星の地球が生まれ、そこに生命が誕生しました。宇宙や物質の成り立ちに関係していることからヒッグス粒子は「神の粒子」とも呼ばれています。
2013年12月2日掲載