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小型ロケット「イプシロン」打ち上げ成功 ~日本の宇宙開発の最新事情

2013.10.21 掲載
日本が新たに開発した小型ロケット「イプシロン」が2013年9月、初めて打ち上げに成功しました。日本のロケット技術の伝統を受け継ぐ固体燃料型の打ち上げは7年ぶりです。政府は宇宙開発の目的を従来の研究開発から実用に転換する方針を打ち出しており、低価格で打ち上げられるイプシロンは欧米やロシアに後れをとる日本の宇宙産業の切り札として期待されています。今回は日本の宇宙開発の経緯や宇宙政策の現状、イプシロン打ち上げ成功の意義などについて解説します。

2. 鉛筆大のロケットで始まった日本の宇宙開発

2. 鉛筆大のロケットで始まった日本の宇宙開発
 宇宙開発は莫大な資金を必要とするため、多くは各国政府が主導する事業や国際協力プロジェクトとして進められます。専門機関では米国の米航空宇宙局(NASA)が知られています。日本の宇宙開発を担うのは宇宙航空研究開発機構(JAXA)です。
 各国が宇宙開発に本格的に取り組むようになったのは戦後の冷戦期以降です。けん引役は米国と旧ソ連でしたが、日本も技術力は世界のトップレベルでした。
 日本の宇宙開発は1955年に東京大学の糸川英夫教授(当時)が成功させた全長わずか23センチメートル、直径1.8センチメートルの「ペンシルロケット」の水平発射実験から始まりました。ペンシルロケットは固体燃料を使用しており、この日本独自の技術は小惑星探査機「はやぶさ」を打ち上げた「M-5」、最新鋭のイプシロンへと受け継がれました。糸川教授は「日本のロケット開発の父」と呼ばれており、はやぶさが砂を持ち帰った小惑星は「イトカワ」と名づけられています。
 70年には日本初の人工衛星「おおすみ」の打ち上げに成功し、日本は人工衛星を自力で打ち上げた世界で4番目の国になりました。以後、日本の宇宙開発は着実に発展を遂げ、60年代に米国から導入した液体燃料型の技術を生かして「H2A」「H2B」などの国産大型ロケット技術を確立しました。
 日本は国際的な宇宙開発プロジェクトにも貢献しています。その1つが「国際宇宙ステーション(ISS)」です。400キロメートル上空に浮かぶ有人宇宙施設で、米国、ロシア、日本、カナダのほか欧州の11カ国が宇宙環境を利用してさまざまな実験や研究を行っています。2009年にはISSへの必要物資の運搬手段として日本の無人輸送機「HTV(愛称・こうのとり)」の運用が始まり、13年8月には4号機が打ち上げられました。
 日本の宇宙開発は多くの民間企業の技術が支えています。はやぶさの長距離の飛行と地球帰還ではNECが開発を主導したイオンエンジンが活躍しました。キセノンという気体を太陽光を利用して蛍光管の中と同じようなプラズマ(電離気体)状態にしたものを噴射して推進力を得る技術です。三菱電機は衛星の製造で、三菱重工業はH2AとH2Bの開発でそれぞれ知られています。このほかにも、ロケットや衛星の重要部品の製造・加工を手がける中小企業が数多くあります。
2013年10月21日掲載