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「2%物価上昇」の行方は?~インフレとデフレの基本を知る

2013.6.3 掲載
安倍政権は発足当初から「デフレからの脱却」を掲げてきました。具体的には「2%の物価上昇率」を目標とし、これを実現するために今年4月には日銀が大規模な金融緩和を打ち出しました。デフレから脱却して物価が上昇に転じるのか、そして日本経済がかつての勢いを取り戻せるのか、各国が注目しています。今回はインフレ・デフレの基礎知識、これまでの物価の推移、物価と金融政策の関係、デフレ脱却の見通しなどについて解説します。

4. デフレ脱却に向け「異次元の金融緩和」がスタート

4. デフレ脱却に向け「異次元の金融緩和」がスタート
 物価の動向は金融政策とも密接な関係があります。中央銀行(日本は日銀)が金利引き下げなどの金融緩和政策を実施することによって国内で流通するお金の量が拡大すると、経済活動が活発になって物価は上昇しやすくなります。デフレから脱却するために、日銀は99年から政策として誘導する金利を限りなくゼロに近づける「ゼロ金利政策」を導入、さらには国債などの金融資産を購入することで市場に大量のお金を供給する「量的緩和」にも踏み切るなど、金融緩和政策をとってきました。しかし結局はデフレから脱却することができませんでした。
 2012年12月に発足した安倍政権はデフレからの脱却を掲げ、13年1月に2年で2%の物価上昇率達成を目標とする共同声明を日銀と発表。3月に黒田新総裁を迎えて新体制となった日銀は、270兆円という国家予算の3倍に相当する巨額のお金を供給する、「異次元」といわれる強力な金融緩和でデフレ脱却を実現しようとしています。
 具体的な手段の一つが、日銀が金融機関から買い入れる国債の量や種類の増加です。これによって銀行の資金が潤沢になれば、企業や個人への貸し出しや株式などの資産購入が増えると期待しています。今回の金融緩和には「インフレへの期待」を醸成する狙いもあります。企業や個人が「日銀が強力な金融緩和に踏み切るのだから物価は上がるかもしれない」と考えれば、手控えられていた消費や設備投資が増えて、経済活動が活発になります。これにより物価上昇へと導くのが黒田新総裁の狙いです。
 ただし、今回の金融緩和でも国内経済に活気が戻らず、人々の給料も伸びないまま、物価だけが上昇してしまう恐れもあります。そうなれば消費がさらに冷え込みかねません。そもそも、日銀の金融緩和政策だけで物価を上昇軌道にのせるのは困難です。デフレから脱却するためには経済・産業が活気を取り戻し、景気が回復することが不可欠です。安倍政権は今月中にも、医療などの新産業育成や農業の競争力向上、女性が力を発揮できる環境整備などをはじめとする成長戦略をまとめる方針です。日本経済の立て直しに向けて、抜本的で実効性のある政策を打ち出せるのか。安倍政権の手腕が注目されます。
2013年6月3日掲載