戦後の日本は何度かインフレを経験しています。特に物価上昇率が高かったのが1973年に起きた第1次石油危機のときです。中東で戦争が勃発し、湾岸産油国が原油価格の大幅な引き上げと供給削減を相次ぎ発表したことをきっかけに物価が激しく上昇しました。いわゆる「狂乱物価」です。
さまざまな製品の原燃料となる原油が不足したりその価格が高騰したりすれば、製品供給力の低下や生産コストの上昇につながりインフレを招きます。狂乱物価の際は人々の「供給への不安」が物価上昇を加速させました。当時のエピソードとしてよく知られるのがトイレットペーパーの買いだめ騒動です。「商品がなくなってしまう」「値段が上がってしまう」との噂が広がり、主婦らがトイレットペーパーを求めてスーパーなどに殺到。全国で売り切れが続出しました。実際にはトイレットペーパーは増産されて品薄にはなりませんでしたが、供給不足への不安や値上がりの予想が需要を極端に押し上げ、便乗値上げなども誘発しました。その結果、翌年の消費者物価指数が23%も上昇するインフレにつながったのです。
その後、80年代半ばから90年代初頭のいわゆるバブル景気の時や、消費税率が5%に上がった97年前後にも物価は上昇しましたが、90年代後半からはデフレ状態に陥りました。バブル景気の際に、多くの日本企業は設備投資を過度に拡大しました。やがてバブルが崩壊して景気が悪化すると消費も縮小し、供給が需要を大きく上回りました。経済のグローバル化が進み、中国など海外から割安な商品が大量に国内に流れ込んできたこともデフレを加速させました。消費者物価指数は99年から5年連続で低下し、その後もデフレ傾向は現在にいたるまで続いています。