消費者にとっては、物価が上がるインフレよりも下がるデフレの方が良いと思うかもしれません。しかし実際は、物価が上がりすぎても下がりすぎても経済に悪影響を与えます。
まずインフレの場合を考えてみましょう。物価の上昇が際だつようになると、「明日よりも今日買った方が得」という状態になり、商品を買い急ぐ傾向が生まれます。買い手が多ければ物価はさらに上がりますから、物価の上昇が加速するおそれがあります。物価が上がっても給料が急に増えるわけではありませんから、インフレは私たちの生活を圧迫します。
適度なインフレは経済に活気がある証拠といえます。需要が高まって「値段が高くても買いたい」という人々が増えれば、物価は上昇することが多いからです。ただ、経済に活気がないまま、外的な要因で物価上昇が起こることもあります。近年、新興国の急激な経済成長などを背景に、原油や金属、穀物などの資源価格が世界的に高騰しています。これにより企業の原材料費が高まり、2008〜09年頃には国内で食料品や日用品などの値上げが相次ぎました。このように原材料費や賃金など、商品をつくるためのコストが上がることで起こるインフレを「コストプッシュ・インフレ」といいます。
一方、デフレはモノやサービスの需要が弱まることで引き起こされます。物価が下がり続けるため「今日よりも明日買った方が得」という状態になり、商品を買い控える傾向が生まれます。買い手が少なくなれば値段をさらに下げなければ商品は売れません。値下げした分だけ企業収益は悪化し、企業に勤める人たちの給料は伸びにくくなります。その結果、ますます商品が売れなくなり、さらなる物価の下落を招き、経済活動が縮小してしまいます。このように物価下落と経済活動縮小の悪循環が続くことを「デフレスパイラル」といいます。こうした負の連鎖に陥ると、不況から脱するのが難しくなります。デフレ脱却が強く求められるのもそのためです。