こうした新興国の大気汚染が周辺国・地域にまで拡散する「越境大気汚染」が新たな環境問題として浮上しています。これまで島国である日本では、越境汚染はそれほど問題視されてきませんでした。しかし近年は中国と韓国の経済発展が目覚ましく、これに伴い発生した大気汚染物質が偏西風(地球の中緯度の上空を西から東に1年中吹いている風)で運ばれることが懸念されています。例えば2007年に西日本を中心に広い地域で光化学スモッグ注意報が発令されましたが、国内での原因物質の排出は減少傾向にあることから中国などからの越境大気汚染が懸念されました。また、日本における酸性雨の原因となる窒素酸化物や硫黄酸化物の多くについても、主に中国から運ばれてきていると考えられています。
最近注目を集めている微少粒子状物質「PM2.5」の列島各地への飛来も越境大気汚染の一つと言えます。PM2.5とは、大気中に浮遊する微少の粒子のうち大きさが2.5マイクロメートル以下のものを指し、ものを燃やしたときに発生したり、工場や自動車などから排出されたガスが光やオゾンと反応して生成されたりします。髪の毛の太さの30分の1ほどと非常に小さいため、肺の奥深くに入りやすく、ぜんそくや気管支炎、肺がんになる危険性を高める可能性があります。北京市を中心とした中国東部では、自動車の排気ガス、石炭火力発電所の排出ガス、家庭の石炭ストーブのばい煙を発生源とするPM2.5に多くの市民の健康が脅かされていますが、2013年1月に西日本の観測所で高い数値でPM2.5が検出されたことから、国内でも健康への影響が危惧されています。